<松果体部に好発する腫瘍とは>
まずは松果体部に好発腫瘍について、一般的な事柄を記す。
 松果体部腫瘍とは、松果体およびその近傍に発生する腫瘍をさす。諸外国の原発性脳腫瘍のなかで占める割合は2%程度であるが、わが国では約4%と非常に多い。この部に発生する腫瘍の組織型および臨床症状は多彩である。
 松果体に発生する腫瘍のうち頻度が多いものは胚細胞性腫瘍germ cell tumorで、胚芽腫,奇形腫,絨毛上皮腫(絨毛癌),胎児性癌などからなる。ほかにまれな腫瘍として、松果体実質細胞に由来すると考えられている松果体細胞腫pineocytoma,松果体芽細胞腫pineoblastomaや神経膠腫,髄膜腫,類上皮腫などもこの部に発生する。
 臨床症状は、組織型を問わず以下のような共通の症状が出現する。
|翡梢綟三鞠による頭蓋内圧亢進が起こり、頭痛,嘔吐などが起こる。
中脳四丘体や中脳の圧迫あるいは浸潤による症状として、Argyll Robertson瞳孔(対光反射がみられず、輻湊反射は正常),上方注視障害(パリノー症候群Parinaud syndrome),中枢性難聴などがみられる。
小脳失調などがみられる。
ぞ児に発生するHCG産生胚細胞腫瘍では、時に思春期早発症がみられる。

<検査、周術期管理および外科治療について>
 検査としては、X線写真にて松果体の異常石灰化像がみられる。小児に認められた場合、有力な診断所見となる。plain CTにて、左右対称性の脳室拡大、拡大した第3脳室、松果体部の均一な高吸収域石灰化がみられる。胚腫にてほぼ均一高吸収域の円形腫瘍、奇形腫では様々な吸収域が混在している。enhanced CTにては、腫瘍enhanceがみられず、この点で頭蓋咽頭腫とは異なる。
治療前評価としては、画像診断上、松果体部胚細胞腫瘍や上衣腫などの神経膠腫、松果体実質腫瘍など鑑別が困難であることが少なくない。故に、術中病理診断などにより確定が行われる。
 また、松果体部胚細胞腫瘍、松果体実質腫瘍では髄空内播種をきたしやすい腫瘍であるため、髄空内播種の有無を術前に評価しておくことは、術後の補助療法の方針を考える上で重要であり、患者の状態が許す限り脳・全脊髄のMRI、髄液細胞診を施行しておくべきであるとされている。血清・髄液診断に臨床レベルで応用できる腫瘍マーカーは現在のところ確立されていない。ただし、腫瘍マーカーの検索は、松果体部胚細胞腫瘍の鑑別に有用であるとされている。血清・髄液中のHCG-β、AFP、PLAPなどが有用である。
 さらにQOLとの関わりとして、神経眼科学的評価および内分泌機能の評価が重要である。神経眼科学的評価としては、腫瘍が中脳を圧排することによるParinaud症候群や閉塞性水頭症に伴ううっ血乳頭や視力障害の有無を評価する。内分泌機能の評価としては、松果体実質腫瘍では閉塞性水頭症による視床下部障害により尿崩症などの内分泌障害を伴うことがある。
 周術期管理としては、以下のようなことに注意すべきであると考えられている。松果体部腫瘍患者は、初診時に高率に閉塞性水頭症を伴う。水頭症を合併する場合、可及的早期に腫瘍の摘出を行うべきであるが、水頭症が高度で頭蓋内圧亢進が明らかな場合、開頭術に先立って脳室ドレナージ術を施行する。脳室腹腔シャント術は、腫瘍の腹腔内播種をきたしうるため避けるべきであるとされている。
 また、髄液細胞診や胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーの検索を目的として術前に脳脊髄液を採取することもあるが、閉塞性水頭症が明らかで頭蓋内圧亢進が強いと予想された場合には腰椎穿刺を避け、脳室ドレーンから採取した、あるいは開頭術の際に側脳室穿刺を行い採取した脳室内脳脊髄液で代用する。
 腫瘍の大半が摘出された場合、閉塞性水頭症は改善するが、それまでに数日を要する。故に、術前あるいは術中に挿入された脳室ドレーンは、術後設定圧を漸増し数日後に抜去したほうが良いと考えられる。
 開頭術後痙攣を合併することがあるため、術前からの抗痙攣薬を投与し、最短でも術後の補助療法を終了するまでは継続することが、功を奏することがある。術後にシスプラチンを含む化学療法を施行する場合、副作用の有無の評価のため、施行前後で聴力や腎機能を評価する。また、術後に放射線療法を加える場合は、放射線脳障害の有無評価の目的で
放射線治療前後に高次脳機能検査、脳波検査などを行う。

 治療としては、以下のような方針で行う。生検、術中病理診断を行い胚腫であればあえてあえて無理に全摘せず(可能であれば全摘)、術後に放射線療法(拡大局所照射)と化学療法を施行する。生検で胚腫以外かつ放射線抵抗性の腫瘍であれば、極力全摘を試みて、術後に放射線・化学療法を行う。また、近年では自家骨髄細胞や末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が試みられてもいる。

 手術の目的としては、術後の補助療法の選択、選択制病変出現頻度、予後の予測、ならびに長期追跡計画のための正確な病理組織診断、全摘による治癒などがあげられる。
 松果体部腫瘍に対する手術は、アプローチとして以下のようなものがあげられる(具体的な手技に関しては、8.治療 を参照のこと)。
1)テント下小脳上到達法(infratentorial supracerebelar approach)
 テント下小脳上到達法は、正中において小脳テントと小脳上面の間からアプローチする。腫瘍は深部静脈系の下方に見えるため、摘出に有利である。このアプローチは原則として坐位(sitting position)で行う。坐位を用いることで重力により小脳が自然に下降し、小脳半球の圧排を軽減することができる一方、空気塞栓症、気脳症などをきたす場合がある。

2)後頭部経テント到達法(occipital transtentorial approach)
 後頭部経テント到達法は、後頭葉下内側面を圧排し、小脳テントを切開して松果体部に到達する方法である。このアプローチは、以下のような利点を有する。
顱ヂΣ薜漫∧臥位により手術が可能である。すなわち坐位をとる必要が無く、空気塞栓の可能性がない。
髻ゥ謄鵐半絏爾謀呂辰胴範囲を術野におさめることができ、松果体腫瘍のほとんどのバリエーションに対応できる。
鵝ジ綟葉内側面から上矢状動脈洞に流入する静脈は通常乏しく、アプローチにおいて犠牲になる血管が少ない。
 一方、以下のような欠点も存在する。
顱Galen静脈、アプローチ側の脳底静脈、内大脳静脈が腫瘍の手前に位置するため、腫瘍の摘出時に邪魔になりやすい。
髻ヂ荵闇昭質以と両側の内大脳静脈が観察しにくい。
鵝ジ綟葉の圧排により術後に視野障害をきたすことがある。

 手術の合併症として頻度の高いものに関しては、眼球の上方注視麻痺がある。ただし、術前に本徴候が見られない場合には、一過性のことがある。また、後頭部経テント到達法によっては、後頭葉内側面の圧排による同名半盲が起こりうる。