救急部レポート

−悪性症候群neuroleptic malignant syndromeについて−


機コ鞠
 悪性症候群は、向精神薬治療中の重篤な副作用として1956年に報告された。1950年代初期にchlorpromazineが臨床応用され、1950年代後半に悪性症候群に類似した疾患が報告されはじめ、抗精神病薬との因果関係が問題とされてきた。1960年 Delayにより、悪性症候群として最初に報告され、本邦では1974年において、大塚らにより初めて報告された。
 抗精神病薬投与患者の0.02~3.23%(Caroff 0.5%,CohenやPopeらは1.4%と報告)に生じるとされている。わが国では1666症例の報告されている(ただし、1989年の厚生省悪性症候群研究班調査結果のみ。抗精神病薬投与者間での割合は約1%と考えられている)。
 主要症状は、原因不明の高熱,発汗,頻脈,唾液分泌過多症,血圧の変動などの自律神経症状,筋強剛,無動無言,振戦などの錐体外路症状,嚥下困難,失声,意識障害である。検査では、白血球増多,高クレアチンキナーゼ血症,血清鉄低下,ミオグロビン尿などをきたす。致死率は、20%前後である。精神分裂症,躁うつ病などの治療で用いられる向精神薬(ハロペリドール,クロルプロマジンなど),抗てんかん薬,あるいは抗パーキンソン病薬などの中断でも起こる。

供ド詑
 いくつかの仮説があるが、病態生理全てを説明できるモデルは確立されていないといわれている。
1)ドパミン受容体の遮断
 悪性症候群の原因である抗精神病薬は中枢ドパミン受容体遮断薬であること、パーキンソン病患者でL-dopa治療の中断が原因となって本症状が発症することから、中枢ドパミン受容体遮断作用が関与していると考えられる。黒質線状体系・中脳皮質系のドパミン神経の障害により筋強剛、意識変化、自律神経障害が、視索前野・視床下部(熱放散機構)のドパミン神経の障害により高熱がおこると考えられる。
2)ドパミン・セロトニン不均衡仮説
 ドパミン受容体遮断作用が弱い抗うつ薬が発症の原因となっていることから、ドパミン受容体とともに中枢セロトニン代謝亢進が関与するということが考えられる。中枢においてドパミンは体温下降に、セロトニンは上昇に関係することから、悪性症候群の高熱症状を説明しようとした説である。抗うつ薬によるセロトニン再取り込み阻害作用によるセロトニン系自身の直接作用により、体温上昇が刺激されたと考えられる。
3)細胞内カルシウム異常仮説
 ダントロレンの中枢作用の研究から、細胞内カルシウム調節異常が存在し、その結果としてセロトニン神経やノルアドレナリン神経機能が亢進したと考えられる。
4)GABA欠乏説
 GABAはアセチルコリンとともに黒質線状体ニューロン系のドパミンニューロンの制御をするので、相対的なGABAの欠乏により引き起こされると考えられる。悪性症候群の治療にベンゾジアゼピン系のジアゼパムが有効であった例から推測された。

掘タ巴
 発症発現までの時間は、90%以上の患者で原因薬物の投与開始あるいは中断後から1ヶ月以内で、発症時期から突発型(2日以内、19.7%)、早発型(2日以降2週間まで、45.3%)、遅発型(2週間以降、22.7%)に分けられる。
 悪性症候群は多くの場合、何らかの前駆症状をもって始まる。最も特徴的な症状として、
_鯒剤に反応しない持続性の発熱(38℃前後の熱が12時間以上続き、徐々に上昇し、時には40℃をこえる)
筋強剛・振戦、無動(表情に変化がなくなる)などの錐体外路症状
H汗・頻脈などの自律神経症状
ぜ蠅砲えないほどの興奮などの意識障害
 があげられる。経過としては発熱の後に筋強剛が現れる。よってそれに由来するミオグロビン尿などの検査値の異常は少し遅れて出現することになる。
 以下の表に主要症候の出現データを示す。

 
MNSの主要症候(厚生省国立病院共同研究より)
 1) 体温(38.1℃以上)87%
 2) 意識障害
    昏迷
    軽度以上のもの 29%
 3) 錐体外路症状 60%
    筋強剛 94%
    無動無言 90%
    振戦 76%
    ミオクローヌス 15%
    ジストニア 15%
 4) 自律神経症状
    発汗 91%
    唾液分泌過多 60%
    閉尿 57%
    頻脈 88%
    血圧の変動 61% 

 
悪性症候群の診断基準としては、DSM IVの基準、Caroffらの診断基準、Popeらの診断基準などがある。診断基準はそのほとんどが臨床症状であり、除外診断的である。抗精神病薬や抗うつ薬の投与歴、あるいは抗パーキンソン病薬やbenzodiazepine系抗不安薬の離脱状態、抗精神薬治療の既往歴が必要となる。例として、以下にDSM犬凌巴粘霆爐鮗┐后


Research criteria for Neuroleptic Malignant Syndrome(DSM IV)
 A.抗精神病薬使用に関連した筋強剛と発熱
 B.以下の2項目以上を満たす。
  1)発汗 2)嚥下困難 3)振戦 4)失禁 5)意識レベルの低下
  6)無言 7) 頻脈 8)血圧の上昇もしくは変動 9)白血球の増加 10)CK上昇
 C.その他の疾患の否定
 D.その他の精神疾患の否定
 鑑別疾患としてあげられるのは、以下のようなものである。
・原発性中枢神経疾患(intravascular lymphomatosisなど)
・感染症(脳炎、髄膜炎、破傷風)
・腫瘍  脳血管障害  外傷  てんかん
・精神疾患(致死性緊張病)
・内分泌疾患(甲状腺クリーゼ、褐色細胞腫)
・中毒(CO中毒、フェノールなど)
・熱中症 アルコール離脱症候群
・薬剤(ドーパミン拮抗薬、MAO阻害剤、抗コリン薬)


 検査所見に悪性症候群に特異的な変化は認められないが、骨格筋由来の血清CK値、血清酵素(LDH,トランスアミナーゼなど)、白血球の上昇や代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿などがある。CK値上昇は最も特徴的な所見であるが、必ずしも重症度とは相関しない。むしろ治療経過のモニターとして役立つ。
 生化学検査(厚生省国立病院共同研究より)において、以下のような異常がみられる。
白血球増多(55%)、CPRあるいは赤沈亢進(45%)、CPK上昇(65%)、LDH上昇(46%)
GOT上昇(63%)、GPT上昇(45%)、BUN上昇(54%)、ミオグロビン尿(7%)
 また、特に悪性症候群が疑われる場合の検査項目としては、
【バイタルサイン】
血圧、頻脈、体温、呼吸、意識レベル
【早急に必要とされる検査】
・生化学検査
GOT、GPT、LDH、CPK(アイソザイムも)、BUN、クレアチニン、Na、K、Cl、Ca、  アルドラーゼ、CRP、血中ミオグロビン
・血液一般:特に白血球
・尿検査:尿中ミオグロビン
・心電図
・胸部及び腹部XーP
などがある。また、下記のような合併症を来すこともある。
・肺炎:筋強剛による嚥下困難によって誤嚥を引き起こすためにおこる。最多である。
・腎不全:臨床的症状から持続性の筋強剛が出現するため、横紋筋融解症を併発し、高ミオグロビン血症、ミオグロビン尿を認め、腎不全に至る。もし赤〜褐色尿を認めた場合などは腎透析の適応を考慮するべきである。
・神経症状:40℃以上の発熱が続くと中枢神経、末梢神経に非可逆性の変性を引き起こすことがある。
 その他、心不全、痙攣、敗血症、肺梗塞、DICなども生じる可能性がある。
 悪性症候群の危険因子としては、
環境条件:高温・高湿度が悪性症候群の発症危険度を増大する可能性がある。
基礎疾患:ある特定の神経科疾患に多いわけではないとされている。
身体条件:疲弊、精神運動興奮、脱水、感染などの条件が影響すると考えられている。
 薬剤に関しては、基本的にはすべてのドーパミン2受容体拮抗薬が関連すると言われる。また、その頻度としてはuhaloperidole(セレネース®)>chlorpromazine(コントミン®)
uprochlorperazine(ノバミン®),droperidol(ナウゼリン®) , promethazine(ピレチア®),metoclopramide(プリンペラン®)などの制吐剤、麻酔薬、鎮静薬などが問題となる。
 さらに、抗精神病薬と他の向精神薬の併用としては、炭酸リチウム、三環系抗うつ薬、MAO-I、抗パーキンソン薬などが危険因子となる。また、薬物投与量としては、総投与量よりも治療時に投与した一回量が関与強い。ただし、薬剤の変更や中止も強く関与している可能性がある。

検ゼN
・予防と対症療法
 前駆症状の早期発見
 抗精神病薬の中止
 全身管理としては、特に以下のような対処を行う。
  1.適切な補液による脱水、電解質バランスの補正
  2.クーリング
  3.酸素の投与および呼吸循環管理
  4.腎機能のモニタリング
  5.精神症状にはベンゾジアゼピン(フルニトラゼパムなど)の静脈内投与
 また、心・肺・腎の管理として誤えん性肺炎、呼吸不全、腎不全等の合併症を行う。

・薬物療法
薬物療法としては、下記のものを用いる。
ドーパミン作動薬:Bromocriptine
Dantorolene:筋小胞体からのCa2+遊離によって起こる興奮−収縮連関を抑制
      神経終末からの神経伝達物質の遊離抑制による中枢作用
 dantroleneの使用法としては、以下のような方法で用いる。
1.ダントリウム®注射用40mg div
2.効果を見て20mgずつ増量
3.最高200mgを1日2回に分割投与(または20mgを6〜8時間間隔)
4.投与期間は7日間を目安に
5.点滴終了後、1日75mg/3経口を2~3週間使用可
(ただし、パーキンソン病患者はイレウス傾向があるが、イレウスの場合ダントロレンナトリウムは禁忌である)
 bromocriptineの使用法としては、以下のような方法で用いる。
1.軽症例で初回7.5mg、重症例では15mg投与
2.効果不十分の場合、1日ごとに2.5~5mg増量
3.1日最高30mgまで投与可
4.軽快後は1日2.5~5mgずつ数日ごとに漸減し終了
・電気痙攣療法(ETC)
 欧米ではETCが行なわれており(PMD:10544988)、有用であったという多くの報告例があるが、悪性症候群の治療の第一選択として施行されることは少ない。

・治療成績
Paul S,MD:Pharmacotherapy of neuroleptic malignant syndrome(Psychiatric Annals 21:3/Mar 1991)
 上表より、total useにて最も改善がみられたのはBromocriptine(83%)であり、次いでDantlorene(81%)であった。逆に、悪化例の割合が最も多いのはAmantadine(35%)、次いでBromocriptine(24%)であった。死亡率としては、Bromocriptine(10%)はDantlorene(10%)とほぼ同程度であった。
 単独投与では、Bromocriptine(94%)が最も改善率が高かったが、一方で、悪化例はBromocriptine(18%)でありDantlorene(6%)と3倍もの差が認められた。死亡例に関しては、Bromocriptine(8%)とDantlorene(9%)では差は認められなかった。故に、治療薬としてはBromocriptineとDantloreneが考えられ、改善率と悪化率を鑑みることでDantloreneを第一選択として用い、Dantloreneが無効ないし効果不十分な症例に関してはBromocriptineを用いるという治療方針が考えられる。

后ス融
 悪性症候群の早期発見のためには、症状や起因物質などから、以下のようなことに気をつけるべきであると考えられる。
 まず、服用薬使用歴に関してである。特に、ドーパミン2受容体拮抗薬が関連すると言われる。また、その頻度としてはuhaloperidole(セレネース®)>chlorpromazine(コントミン®)uprochlorperazine(ノバミン®),droperidol(ナウゼリン®) , promethazine(ピレチア®),metoclopramide(プリンペラン®)などの制吐剤、麻酔薬、鎮静薬などが問題となるため、これらの薬剤使用歴が重要であると考えられる。さらに、抗精神病薬と他の向精神薬の併用としては、炭酸リチウム、三環系抗うつ薬、MAO-I、抗パーキンソン薬などが危険因子となる。
 次に、症状に関してであるが、以下のようなDSM-犬凌巴粘霆爐亡悗垢觜猝1)発汗 2)嚥下困難 3)振戦 4)失禁 5)意識レベルの低下6)無言 7) 頻脈 8)血圧の上昇もしくは変動 9)白血球の増加 10)CK上昇 などを検索する必要がある。特に、発生頻度の高い意識状態の変化(昏迷、興奮・譫妄)を観察する必要があると考えられる。また、錐体外路症状(筋強剛、嚥下困難、尿閉、流涎)や自律神経症状(発汗、血圧の変動)、解熱剤に反応しない高体温などが他疾患との鑑別に必要であると考えられる。検査項目に関しては、CK値の上昇がある。また、白血球増多(55%)、CPRあるいは赤沈亢進(45%)、CPK上昇(65%)、LDH上昇(46%)GOT上昇(63%)、GPT上昇(45%)、BUN上昇(54%)、ミオグロビン尿(7%)なども参考になる。
 最後に、悪性症候群発症後の抗精神病薬の投与についても考えてみたい。悪性症候群を経験した患者の薬物療法の再開には十分な注意が必要であり、低力価の抗精神病薬をできるだけ低用量から再開しなければならない。したがって、薬剤管理指導による薬物療法のモニターと服薬指導は重要である。服薬指導に際して、抗精神病薬投与中の患者に対しては、自分勝手な抗精神病薬の調節や抗パーキンソン薬の減量・中止をしてはならないことを説明するとともに、常に悪性症候群の初期症状に注意し、患者の状態を臨床検査値からも把握しておく必要がある。具体的には、感冒様症状の持続(解熱剤に反応しない発熱)、または、急激な発熱や発汗、唾液の増量、頻脈、嚥下困難、筋肉痛や強ばり、精神症状の変化、体温、血圧、脈拍などのバイタルサイン、脱水や身体疲弊などの全身状態に注意を払うとともに、血中CPKや血中・尿中ミオグロビンなどのモニターを薬剤師も積極的に行わなければならない。
 基本的には、悪性症候群を来した患者は、ドーパミン受容体遮断薬の中止を続ける必要があると思われる。しかしながら、抗精神病薬の使用は患者にとって必要不可欠であると思われるため、以前の薬剤に変わるものが必要となると考えられる。そこで、zotepine(ロドピン®)、risperidone(リスパダール®) を代用することが可能かと思われる。その理由としては、これらの薬剤が抗ドーパミン作用以外に、中枢性のセロトニン受容体遮断作用もあるためと考えられている。特に、悪性症候群の再発を回避するための薬物療法として、エキスパートコンセンサスガイドライン(1999年版)ではOlanzapine、Clozapine、Quetiapine、Ziprasidone、Risperidoneなどの非定型抗精神病薬の使用が推奨されているため、これらの薬剤使用を考えるべきであると考えられる。