孤発性SCDの鑑別について


 脊髄小脳変性症は、小脳・脳幹・脊髄を中心に病変を生じる疾患で、臨床的には運動失調症・構音障害・不随意運動などを主症候とする原因不明の神経変性疾患の総称である。大きく孤発性と遺伝性(家族性)に分類され、神経変性疾患の中では遺伝性の割合が全脊髄小脳変性症の約40%と高いことが特徴とされている。発症年齢について、遺伝性は若年、孤発性は一般に中年期以降に発症するとされている。
 下記では、担当症例でみられる孤発性脊髄小脳変性症の鑑別について記す。
 孤発性脊髄小脳変性症は、大きく分けて多系統萎縮症(MSA)、皮質性小脳萎縮症(CCA)に分けられる。多系統萎縮症(MSA)は、さらにオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、シャイ−ドレーガー症候群(SDS)、線条体黒質変性症(SND)に分けられる。

1)多系統萎縮症(MSA)
 多系統萎縮症とは、小脳性運動失調,パーキンソン症候,自律神経症候などを呈する神経変性疾患の一部であり、オリーブ・橋・小脳萎縮症(OPCA),線条体黒質変性症(SND)およびシャイ・ドレーガー症候群の3者を包括する病理学的概念である。SND以外は一般に、広義の脊髄小脳変性症に分類される。
 OPCA型は小脳性運動失調で初発し、SND型は筋固縮,動作緩慢などのパーキンソン症候で、Shy‐Drager症候群は起立性低血圧,排尿障害,発汗減少,陰萎などの自律神経症候でそれぞれ初発するが、進行とともに程度の差はあるが他の症候も徐々に出そろう。
.リーブ橋小脳萎縮症(OPCA)
 中年以降に歩行障害で発症し、徐々に上肢,言語障害が加わってくる。わが国で最も多い脊髄小脳変性症の一型である。小脳症状は歩行運動失調が主体で、徐々に体幹運動失調,失調性言語などが加わってくる。小脳症状に加え比較的早期より、起立性低血圧,発汗障害,陰萎,排尿障害などの自律神経症状が出現する。本症の特徴の一つであり高頻度で合併する。また、筋固縮,小刻み歩行(こうしたParkinson様症状があるのが、LCCAとの鑑別点ともなる。また、LCCAでは橋底部の萎縮はない),無動など錐体外路症状が出現すると小脳症状が不明瞭になってくる。緩徐進行を示し、多くは発症5〜10年の経過をとる。病理学的には肉眼的に橋・小脳の著しい萎縮があり、延髄オリーブ核の膨らみがみられない。組織学的には、橋核・小脳皮質神経細胞・オリーブ核の細胞および軸索変性が主体であるが、基底核の黒質,線条体,さらに脊髄中間質側核細胞にも変性がみられることが多い。
 CT , MRIでは、小脳と橋(底部)の両方が萎縮を示す。橋下部には、橋横走線維群の変性による信号強度の変化でT2強調画像で十字サイン(hot cross bun sign)が認められる。

▲轡礇ぁ櫂疋譟璽ー症候群(SDS)
中年になって初発する直腸膀胱障害と重篤な起立性低血圧を特徴とする一症候群である。臨床像としては男性に多く、40〜60歳代発症で、比較的緩徐に進行する。初発症状は男性は陰萎,性欲喪失,排尿障害が、女性では易疲労性,めまい感,暑さへの耐性減弱が多い。進行するに及び強い起立性低血圧を示す。OPCA類似の症状に加えて、起立性低血圧、失禁、無汗などの自律神経症状が前景に立つことが鑑別のポイントとなる。

線条体黒質変性症(SND) 
 パーキンソン症候群を主徴とし、これに錐体路症候や自律神経症候が混在してみられることもある疾患で、線条体と黒質に変性の主座があることからこのように呼ばれる。筋強剛が前景のパーキソニズムがみられるが、振戦は目立たない。両下肢から始まることが多い。その他、自律神経症状、小脳症状、錐体路徴候などが加わる。中高年に発症しパーキンソン症候群(パーキンソニズム)を呈するのでパーキンソン病と臨床的に似るが病理学的には異なりL‐DOPAは無効である。MRIでは、T2強調像で被殻外側にスリット状の高信号域を呈する。パーキンソン病に比べて経過が早い。

2)皮質性小脳萎縮症(CCA)
 小脳失調を主症状として、病理学的に小脳皮質と下オリーブ核の変性を主病変とする変性疾患である。橋底部が保たれている点が、MSA−OPCA typeと異なる。40歳以降、特に40〜60歳代に発症する。OPCAより経過は緩徐であるが進行性である。初発症状は失調性歩行を呈し、wide-basedとなり、体幹が動揺して倒れやすい。進行すると上肢の失調症状、緩徐言語などが出現するが、錐体外路徴候は出現しない(この点がOPCAとの鑑別点となる)。深部腱反射は正常が多いが、亢進することもある。