眼科レポート

―網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)について−


【概論】
 網膜静脈分枝閉塞症 branch retinal vein occlusion,BRVOとは、網膜静脈の分岐が閉塞を来たし、網膜に出血を来たす疾患である。上耳側静脈域に好発する。網膜中心静脈閉塞症より頻度が高く、一般に視力の予後は良いとされている。
原因としては、高血圧が危険因子となる。網膜の動静脈が交差する部位は血管壁が共通であるために動脈硬化が静脈に波及しやすいからである。また交叉現象は上耳側に生じやすいため、本症は上耳側静脈域に好発する。
病態としては、動静脈交叉が多い上耳側静脈域の出血が多く、閉塞部位の末梢側で静脈が拡張して透過性が亢進し、出血や浮腫を生じ、綿花様白斑を生じる。この際生じた出血は、数か月で出血は吸収される。静脈は白線化し、硬性白斑が残る網膜静脈分枝閉塞症では動静脈交叉にて静脈の閉塞と出血が生じるとともに、それより末梢では毛細血管が閉塞して無血管野となる。動静脈交叉現象 arteriovenous crossing phenomenonが関係していると考えられる。動静脈交叉現象とは、高血圧性網膜症において、動静脈はその交叉部において外膜を共有しているために動脈壁が肥厚すると静脈が圧迫されて閉塞する。これより抹消では血液の鬱滞と出血が生じる。交叉現象は上耳側に多いとされている。このため、上記のとおりの好発部位が生じると考えられる。無血管野領域とは、出血を来たした部位の網膜は毛細血管が閉塞し、のちに無血管野となるとされる。無血管野からは新生血管が増生することになる。
 網膜静脈分枝閉塞症の発生機序としては、以下のようなものが考えられる。すなわち、
1)圧迫による閉塞:動脈と外膜を共有する部位で、硬化した動脈が圧迫。最も多い。
2)血液の粘稠性の亢進:慢性骨髄性白血病、多血症、マクログロブリン血症など
3)血管壁の異常:糖尿病、ベーチェット病、サルコイドーシスなど
 網膜静脈閉塞症のリスクファクターとしては、以下のような既往歴患者が当てはまるとされている。すなわち、緑内障(眼圧異常者)、糖尿病、高血圧、血液疾患である。
 合併症としては、硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離である。

【診断について】
 症状としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、
霧視感:網膜静脈閉塞症の主たる症状である。これは黄斑部に液の過剰漏出が起こるためである。黄斑部とは網膜の中心であり、中心視力に関係する。黄斑部が過剰の漏出で腫れたら、かすんで見にくくなる。
飛蚊症:視界をさえぎる暗い点状の影である。網膜血管が正常に働かない時、網膜には異常血管(新生血管)が生えてくるが、これは破壊しやすいため、硝子体の中へ血液やその他の液性成分が漏出し、結果、飛蚊症の原因となる。
眼痛:高度の網膜中心静脈閉塞症にときどき起こりうる。これは血管新生緑内障と呼ばれ、眼圧が著しく高くなるために起こり得る。
検査としては、以下のようなものを行う。すなわち、眼底を診察の後、血液検査や蛍光眼底検査を行う。蛍光眼底検査では、眼底の血管からの色素の漏出や血管の閉塞を調べる。また、潜在する全身疾患の状態を知るため、内科受診を勧める場合がある。

【治療】
 網膜静脈閉塞症の根本的な治療はないとされている。出血や液性成分の漏出は自然に消退するため、眼科医は適当な間隔での経過観察を勧めることとなる。特に、進行状況によっては、以下のような治療を行うこともある。
レーザー治療:硝子体出血や血管新生緑内障の予防のために行う。これらが一旦起こった状態では、レーザー治療で出血を軽減させたり、眼圧を降下させることは不可能である。そこで、硝子体出血や血管新生緑内障の危険がある患者にはこれらが起こる前にレーザー治療を行うことが有用であるとされている。すなわち、無血管野領域に対して行ない、新生血管の増生を抑制する。また、ステロイドが乳頭静脈周囲炎に有効であるともされているため、薬物治療を行うこともある。
 また、合併症である硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離に対しても治療が必要となることがある。これらに関しては、網膜硝子体手術である、1) レーザー光凝固 2) 強膜内陥術 3) 硝子体手術などを行う。