大阪バイオサイエンス研究所の裏出良博研究部長と大阪大学大学院生の兼清貴久さんの研究グループは、認知症のアルツハイマー病を発症段階で抑える酵素が脳脊髄液に含まれていることを見つけ26日、米国科学アカデミー紀要に発表した。この病気の治療法はいまだ確立されておらず、発症予測の方法や治療薬の開発に役立ちそうだ。

アルツハイマー病は、今では早期発見し、症状の進行を遅らせることができるが、根治させる治療薬の開発が待たれている。
 
この病気は脳内でつくられるアミロイド・ベータという小さなタンパク質が神経細胞の周囲に取り付き、細胞を死滅させることが原因のひとつ。裏出部長らは、脳脊髄液の主要なタンパク質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素が、アミロイド・ベータと固く結合し、凝集を抑えることを発見。

この酵素を作る遺伝子を欠いたマウスと正常のマウスで比較したところ、脳内にアミロイド・ベータを加えると、遺伝子を欠いたマウスでは3倍以上も凝集した。逆に、この酵素を遺伝的に多量につくるマウスでは数分の1に減った。さらに、ヒトの脳脊髄液からこの酵素を除くと、凝集を抑制する効果が半減した。
(アルツハイマー治療に光 発症抑制する酵素を発見)


アルツハイマー病の病態としては、アミロイド仮説が有力視されています。

脳の神経細胞で作られるタンパク質〔アミロイド前駆体蛋白質(APP)〕が切断され、その断片の一部がアミロイドβ蛋白質(Aβ)になります。アミロイドβ蛋白質は互いにくっつきやすく、これが脳内に蓄積することで脳の中に老人斑がつくられます。この老人斑は神経細胞を死滅させて、その結果としてアルツハイマー病が発病すると考えられています。

その仮説にのっとって、
1)セクレターゼ阻害剤
→アミロイドベータ蛋白質の産生を抑制することによるアルツハイマー病治療の試みが検討されています。アミロイド前駆体蛋白質を切断するセクレターゼ酵素(βセクレターゼ・γセクレターゼ)の阻害剤を患者さんに投与すれば、アミロイドβ蛋白質の産生が抑制されてアルツハイマー病が改善するのではないかという考えです。
2)アミロイドβ蛋白質ワクチン
→ワクチンによる予防や治療法も大きく期待されています。この方法はアミロイドβ蛋白質をワクチン(免疫原)として患者さんに投与し、体内でのアミロイドβ蛋白質に対する自治の産生を高めさせ、免疫の働きを利用してアミロイドβ蛋白質の除去を促進させるという治療法です。
3)金属イオンキレーター
→アミロイドβ蛋白質の凝集を促進する銅・亜鉛イオンの除去剤(キレーター)を患者さんに投与すれば、老人斑の形成が抑制され、アルツハイマー病治療につながるのではないかという考えも提出されています。

といったものが治療戦略として考えられます。今回の発見でも、やはり発症を遅らせることはできるが…ということに留まるようです。

ですが、これが臨床応用できれば、大きな進歩です。本邦での治療法としては、

・AChE阻害薬:ドネペジル(アリセプト®)、投与タクリン、リバスチグミン、ガランタミン、α-tocopherol(ビタミンE)
・MAO-B阻害薬:塩酸セレギリン(エフピー®)
・非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)
・その他:メシル酸ジヒドロエルゴロトキシン(ヒデルギン®),エストロゲン補充療法,メラトニン,銀杏の葉などの植物製剤,キレート剤

などです。戦略にのっとった、治療ができるようになれば、と期待しております。