性同一性障害(GID)の診断を受け、乳房の切除手術をした立命館大の大学院生が、医療ミスで皮膚が壊死し、本来あるべき医師間連携の不足で精神的苦痛を被ったとして、大阪医科大(大阪府高槻市)に総額約3,300万円の損害賠償を求める訴えを近く京都地裁に起こす。

GIDの診断・治療ガイドライン(指針)を定める日本精神神経学会や当事者団体によると、指針に沿って専門外来を設けている医療機関の手術をめぐり、訴訟に発展するのは初めてとみられる。

訴えを起こすのは京都市の吉野靫(ゆぎ)さん(24)。中学生のころから「女性であること」への違和感を強くし、大学3年の2003年夏に大阪医科大付属病院の専門外来でGIDと診断された。病院内の倫理委員会などの審査を経て、昨年5月20日に同病院形成外科で乳房の切除手術を受けたが、6月12日に縫合部が左右とも壊死していたことが分かった。

吉野さんは
・壊死の危険性について事前に何度も確認したが、医師は否定した。
・手術前夜に手術の方法を変えた。
・皮膚のはく離範囲を広く取りすぎるなど手術に過失があった。
・手術後に異変を感じて壊死の可能性を尋ねたが、医師は適切な対応や精神科への連絡をせず、突然壊死を告げた。
などと病院側の責任や対応の不備を指摘する。

日本精神神経学会は指針で「GIDに理解と関心があり、十分な知識と経験を持った専門領域の異なる医師がチームをつくり、診断、治療を行う」と定めている。吉野さんは
「精神科の主治医は手術が施されたことすら知らず、チーム医療は名ばかり。可能な
範囲で満足のいく体が欲しいという願いが裏切られ、大きな精神的苦痛を受けた」と
訴えている。大阪医科大付属病院は「現段階では、コメントは差し控えたい」としている。


「壊死の危険性について事前に何度も確認したが、医師は否定した」
「手術前夜に手術の方法を変えた」
→治療に際してのインフォームドコンセントに関して、十分な説明や理解を求める姿勢が医師に欠けていたと言わざるを得ないでしょう。特に、リスクに関する説明が欠如していたり、手術内容の説明が不足するなど、問題に至った経緯が明らかです。

「皮膚のはく離範囲を広く取りすぎるなど手術に過失があった」
→剥離範囲の拡大がどのような理由の元に行われたのか不明ですが、事前の説明と異なっており、かつその説明が無いなど、過失を問われても仕方のないことと考えられます。

「手術後に異変を感じて壊死の可能性を尋ねたが、医師は適切な対応や精神科への連絡をせず、突然壊死を告げた」
→これこそ、医師−患者間のコミュニケーションが上手く行われていないことが象徴されているように思います。上記のことと照らし合わせても、訴訟に至ってしまったという残念な結果となってしまったようです。

吉野さんの今回の訴訟により、GID治療に関して一石を投じたと考えられます。