「脳内の掃除屋」と呼ばれるミクログリア細胞が働く仕組みを、井上和秀・九州大教授(神経薬理学)と小泉修一・山梨大教授らのグループが動物実験で解明し、5日発行の英科学誌「ネイチャー」に発表した。アルツハイマー病などの治療薬開発につながると期待される。

ミクログリアは、脳細胞の大半を占める「グリア細胞」の一種で、脳内の免疫をつかさどっている。例えば、アルツハイマー病の原因とされるたんぱく質「アミロイドベータ」の脳への蓄積をミクログリアが除去することは分かっているが、具体的な仕組みは判明していなかった。

研究チームは、生きたラットに神経障害を起こす薬を注射し、記憶にかかわる脳の「海馬」という部分を調べた。薬物刺激によって脳神経細胞が死にかけると、細胞内からDNAの材料として使われている「UDP」という物質が流れ出し、ミクログリアが活性化した。ミクログリアが死んだ細胞に近寄って食べる様子も観察できた。このように脳内の不要物を片付けることによって、新しい神経回路網を作りやすくしているとみられる。

井上教授は「ミクログリアが脳の健康を維持している仕組みが分かった。これを利用してミクログリアの働きを制御する薬ができれば、アルツハイマー病などの治療に貢献できるかもしれない」と話している。
(脳の掃除屋:不要物食べる細胞を解明 九大教授ら)


ミクログリアの活性化の仕組みとして、細胞内からDNAの材料として使われている「UDP」という物質が流れ出し、ミクログリアが活性化し、ミクログリアが死んだ細胞に近寄って食べる様子も観察できたそうです。

この仕組みを限局的に利用できるようになれば、アルツハイマー病を根治できる可能性もあるかもしれません。現在、開発されている薬剤「リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素」などは、アミロイドの沈着を阻害することは期待できても、進行してしまった病状に関しては難しいと思われます。ですので、この研究を臨床応用できれば、さらに治療効果の高い結果を導き出せそうです。

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