凍結保存していた精子を使い夫の死後に妊娠、出産する「死後生殖」について、日本産科婦人科学会(理事長・武谷雄二東京大教授)は14日、京都市で開いた総会で、死亡した夫の意思が確認できないとして、実施を禁じる会告(倫理規定)を正式に決定した。

また、別の会告が禁じた代理出産を実施し、今後、出産を引き受ける代理母を公募すると宣言した諏訪マタニティークリニック(長野県)の根津八紘院長を「会告違反を前提としている」などとして、厳重注意処分にすることを同日の理事会で決めた。

決定した会告は、凍結精子の保存期間を「提供者の生存中」と限定。提供者の死後は精子を廃棄するとし、保存していた精子を体外受精などに使って子を得ることを禁止した。凍結した受精卵や卵子の死後使用は、既に禁じている。

学会倫理委員会の吉村泰典委員長(慶応大教授)は「あらゆる医療行為は、実施する時点で本人の同意が必要だ。凍結精子を死後に使うことは、提供者本人の同意が得られないので医療行為として認めることはできない」と述べた。

また、最高裁は昨年9月、現行法では精子提供者と死後生殖で生まれた子の親子関係は認められないとの判断をしており「子供の福祉も確保できない」(吉村委員長)とも述べた。

国内では根津院長が、死後生殖での出産を平成16年に行っていたことを明らかにしている。学会は「今後は違反しないよう強く求める」としている。

しかし、今回決定した会告で、死後生殖を完全に規制することはできない。死後生殖だけでなく代理出産など倫理的に問題のある生殖補助医療についても国内には法的規制はなく、実施した医師や医療機関に対する罰則もない。望む患者がいて、行おうとする医師がいれば、止めることができないのが実情だ。

厚生労働省は、死後生殖や代理出産などを禁じる「生殖補助医療法」の成立に向け、平成15年に報告書をまとめた。だが法制化にはなお「幅広い観点から議論することが重要」としており、日本学術会議で現在、その是非を検討している。

総会ではまた、子が生まれる前に父親を特定する「出生前親子鑑定」に必要な羊水採取について、裁判所の命令がある場合などを除き禁止する会告も決定した。
(「死後生殖」禁止決定 学会倫理規定)


死後生殖については、最高裁が昨年9月「現行法では精子提供者と死後生殖で生まれた子の親子関係は認められない」との判断をしたのが記憶に新しい。

遺伝関係は明らかでしょうが、「親子」としては認定できないとの判定だった。
それを受けて吉村泰典委員長が「子供の福祉も確保できない」との断定は納得しがたいですが、複雑な環境下におかれるのは確かでしょう。

医療行為の進化は確実に進んでいるが、それに伴う法的な整備はまだまだであるといった状況なのが、根津院長の行為によって明らかになってきた。「あらゆる医療行為は、実施する時点で本人の同意が必要」として、今後は保存することすら行われず、破棄されるということになりそうだ。

今後は、夫の存命中にのみに限って体外受精を行う、といった方向性になるようだ。民放との兼ね合いから、不妊に悩む女性にとっては、厳しい制度化がなされそうだ。

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