ダイオキシンの摂食による世界初の食品公害事件とされるカネミ油症事件をめぐり、国が被害者側に返還を求めている仮払金をほぼ帳消しにする特例法案の今国会成立が確実になった。自民、公明両党がまとめた被害者救済策に対し、「不十分だ」として慎重姿勢をみせていた民主党が、超党派の議員連盟の設置などを条件に、応じる方針を固めたためだ。

民主党は、22日午後に開く農林水産部門・カネミ油症対策プロジェクトチーム(PT)合同会議で対応を決め、23日の「次の内閣」会議で正式決定する。これを受け、与野党は24日にも、特例法案を衆院農林水産委員会に委員長提案する。民主党はこれまで事件発生時に食中毒の届け出をした約1万3000人を対象に一律300万円の特別給付金を支給する特例法案を衆院に提出している。

カネミ油症事件訴訟では、国の責任がいったん認められ、原告約830人に仮払金27億円が支払われた。しかし、その後企業側と和解し、国への訴えを取り下げたことから、仮払金を国に返さなくてはならなくなっている。

4月に開かれた与党側のPTでは、国が被害者側に返還を求めている仮払金を帳消しにする特例法案を今国会に提出する案をとりまとめた。加えて、患者側の医療費支給の要望に対し、約1300人の認定患者全員に「油症研究調査協力金」の名目で1人20万円を支給する方針も決めた。

この与党方針に慎重だった民主党が方針を転換したのは、超党派で議員連盟を結成し、特例法成立後も引き続き、油症の原因物質であるダイオキシン類の健康被害調査などに取り組むことで与党側とおおむね合意したためだ。
(カネミ油症救済法案、民主も同調 今国会成立へ)


カネミ油症事件とは、1968年に、PCBなどが混入した食用油を摂取した人々に障害等が発生した、主として福岡県を中心とした西日本一帯の健康被害事件のことです。

カネミ倉庫で作られた食用油(こめ油)に熱媒体として使用されていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入し、それを摂取した人々に、肌の異常、頭痛、肝機能障害などを引き起こしました。また、妊娠中に油を摂取した患者からは、皮膚に色素が沈着した状態の赤ちゃんが生まれたとのこと。母乳を通じて皮膚が黒くなったケースもあるそうです。

この「黒い赤ちゃん」は全国に衝撃を与え、事件の象徴となった。 2002年に厚生労働大臣が、「カネミ油症の原因物質はPCBよりもダイオキシン類の一種であるPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の可能性が強い」と認めました。現在、原因物質はPCDF及びCo-PCBであると確定しており、発症因子としての役割は前者が85%、後者が15%とされています。

今回の救済策としてあげられているとおり、1970年、被害者は食用油を製造したカネミ倉庫・PCBを製造した鐘淵化学工業(現・カネカ)・国の三者を相手取って賠償請求訴訟を起こしましたが、二審では被害者側が国に勝訴し、約830人が仮払いの賠償金約27億円を受け取ったが、最高裁では逆転敗訴の可能性が強まったため、被害者側は訴えを取り下げました。

この結果、被害者には先に受け取った仮払いの賠償金の返還義務が生じることになったが、既に生活費として使ってしまっていたケースも多く、返還に窮した被害者の中からは自殺者も出るに至ってしまった、という痛ましい事件もおきています。

今回の決定が、もう少し早く行われていれば、と思われます。

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