未成熟なT細胞は、胸腺と呼ばれる臓器の中で増殖・分化します。その際、有用なT細胞を選択して生存させる"正の選択"と、自己を攻撃する有害なT細胞を排除する"負の選択"の"教育"を受けることにより、さまざまな病原体や腫瘍細胞を攻撃できる多様性を持った「T細胞レパートリー」を形成しますが、レパートリー形成までの詳細な機構は不明でした。
 
今回の研究では、胸腺に特異的に発現する新しい酵素(「胸腺プロテアソーム」と命名)を発見し、この酵素が自己のたんぱく質を通常とは異なる方法で切断して細胞表面に提示することにより、キラーT細胞の正常なレパートリー形成に必須な役割を果たしていることを明らかにしました。この胸腺プロテアソームの遺伝子を欠損させたマウスは、キラーT細胞がほとんど産生されなくなります。
 
今回の成果は、自己免疫病や免疫不全病などの免疫疾患の発症メカニズム解明や治療法の開発、そして骨髄移植後のT細胞レパートリーの再構築や新しい癌ワクチン療法の試みなどに新たな視点を与えるものです。
(キラーT細胞の「教育」に必要不可欠な酵素を発見)


胸腺は胸骨の後ろに存在し、心臓の上部にこぶし大に存在する臓器です。上記の通り、未成熟なT細胞は、胸腺と呼ばれる臓器の中で増殖・分化します。ちなみに、免疫担当細胞であるT細胞のTとは、胸腺「Thymus」の頭文字である「T」から名づけられています。

胸腺において、Tリンパ球を分化する役割を持ちます。ですが、年齢による萎縮によりTリンパ球の分化が徐々に行えなくなるため、加年と共に自己抗体が作られ正常な細胞を破壊していくため、老化の要因の一因として考えられています。思春期までは活発に機能するが、その後はだんだん小さくなり、やがて脂肪になります。

キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)は、リンパ球T細胞のうちのひとつで、宿主にとって異物になる細胞(移植細胞、ウイルス感染細胞、癌細胞など)を認識して破壊します。CTLは細胞傷害物質であるperforin, granzyme, TNF(tumor necroting facter)などを放出したり、ターゲット細胞のFasを刺激してアポトーシスに陥らせることで異物を攻撃します。一部はメモリーT細胞となって、異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶され、次に同じ異物に暴露された場合に対応できるよう備えます。

臨床的には、癌に対して癌細胞特異的な抗原に対するCTLを誘導することで治療しようという免疫療法などが研究されています。また、今回の発見により、自己の細胞に対する攻撃をしてしまうキラーT細胞の"教育"により排除を行って自己免疫疾患の治療、もしくは胸腺プロテアソームの遺伝子における欠損を治療することで、免疫不全を治療することができると考えられます。

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