進行癌の患者が自身の身体状態や栄養状態について担当医と異なる見解をもっている場合、死亡リスクが高くなることが米オレゴン健康科学大学癌研究所のIan Schnadig博士らによる研究で示され、シカゴで開催された米国癌治療学会(ASCO)年次集会で発表された。
 
今回の研究では、患者のPS(performance status; 患者の全身的な健康状態や日常の動作を行う能力を示す指標)の評価が医師と一致しない場合、死亡リスクが11%増大し、栄養状態の評価が一致しない場合は38%増大することが判明したという。評価が一致すれば生存期間が延びるというものではないが、コミュニケーションの欠如が予後の悪化をもたらしていると考えられると専門家は指摘している。

この研究にあたって、同大学のチームは進行大腸(結腸)直腸癌および肺癌患者1,636人の協力を得て、7年間の追跡を実施した。医師および患者がそれぞれ、2種類のPS評価と1種類の栄養状態評価を行った結果、それぞれ56.6%、67.1%、58%と、いずれも半数以上の患者が医師と異なる評価をしていることがわかった。

全体として、医師の方が患者よりも高い評価をつける傾向があった。このほか、特に定年前に働くことができなくなった患者では、仕事に関する評価について医師との不一致が生じやすいこともわかった。学歴が高卒未満の人は大学以上の学歴をもつ人よりも医師との不一致が多くみられたほか、頻繁にうつ状態を訴える人も不一致率が高かった。
(医師との見解の不一致が癌(がん)患者の死亡リスクを高める)


Performance Status (PS)とは、患者の全身的な健康状態や日常の動作を行う能力を示す指標です。以下のように程度が分類されています。
0: 全く問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1: 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行う ことができる。例:軽い家事、事務作業
2: 歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3: 限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4: 全く動けない。自分の身のまわりのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす。


上記の結果から、医師は「この程度はこなせる」と思っていることでも、患者さんにとっては「難しい」と感じているようです。この差異を縮めずにいると、癌患者は死亡リスクを高めてしまうそうです。

この背景としては、「医師は自分の苦しみを分かってくれない」といった不信や不安、そこからもたらされる抑うつ感といったものに結びついていくのではないでしょうか。

また、患者さんの全身状態をしっかりと把握し、適切な処置を行っていない(業務がきつすぎて、十分に患者さんのことをみていられない)といった要素もあるのかも知れません。問題は複雑に絡み合っているかとは思いますが、いずれにせよ、十分なコミュニケーションや治療へのモチベーションを保つことが医師にとっても患者さんにとっても必要なようです。

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