ブッシュ米大統領は20日、米国社会で論争になっている胚性幹細胞(ES細胞)研究に対する連邦予算の支出制限を緩和する法案に拒否権を行使した。同様の法案への拒否権行使は2度目。生命破壊につながると批判するブッシュ政権と、難病治療への応用を期待する米議会が「生命倫理」か「生命科学」かを巡り再び激突した。議会側は実現に望みをつなぐが、大統領の拒否権再発動でブッシュ政権下での法制化は難しい情勢になった。

法案は、不妊治療で廃棄される予定の受精卵から取り出したES細胞を使用した研究に連邦資金の支出を認める内容。体外受精された複数の受精卵(ヒト胚)のうち、妊娠に成功した受精卵を除く「余剰胚」を難病治療に活用するのが狙い。

ブッシュ大統領が法案を問題視するのは、余剰の受精卵とはいえ、細胞分裂を開始した生命体を「意図的に破壊する」ことになるとみているためだ。大統領は同日の演説で「人間の命を救うために他の命を破壊するのは倫理的ではない」と強調、「成人の皮膚組織の細胞をES細胞と同じように機能させる研究の成果が出ている」と述べた。大統領は受精卵を破壊する必要のない研究を促進させる大統領令を出した。

民主党のディゲット下院議員は「大統領は多くの患者や家族の希望を拒否した」と批判した。法案支持派は大統領が推進を主張する新規研究について「これらの研究は始まったばかりで、ES細胞研究の代替にはならない」と反論している。
(ES細胞:ブッシュ米大統領、2度目の拒否権 研究への予算支出で)


ES(Embryonic Stem cells)細胞とは、胚性幹細胞といいます。
ES細胞は、動物の発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞細胞株を指します。生体外にて、理論上すべての組織に分化する全能性を保ちつつほぼ無限に増殖させる事ができるため、再生医療への応用に注目されています。

ES細胞は、遺伝子に様々な操作が可能であり、更にそれを胚に戻すことで、生殖細胞を含む個体に参加させることができます。このことを利用して、特定遺伝子を組み換えできたり、意図的に破壊してノックアウトマウスを作ったり出来ます。特に、遺伝子を自在に導入したりすることができるので、マウスなどの実験では、すでに広く利用されているそうです。

しかし、ES細胞を利用するには、受精卵ないし受精卵より発生が進んだ胚盤胞までの段階の初期胚が必要となります。ヒトの場合には不妊治療の際に採取される受精卵が材料となりうるため、ブッシュ大統領が反対しているように、倫理的な問題もはらんでいます。

ですが、難病の研究などや遺伝子治療、再生治療など、今後の医療を担う大事な研究のためには、ES細胞が必要となっているのもまた事実であると思われます。法案が現実化することが望まれます。

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