世界保健機関(WHO)は29日、4時間以上の長時間フライトで、「エコノミークラス症候群」などの静脈血栓症の危険が通常の約2倍になるとの調査結果を発表した。

飛行機だけでなく、列車やバスでも4時間以上同じ姿勢で乗り続けると、血栓症の危険は高まるという。発表によると、フライト後も血栓症の危険は4週間程度続くため、短期間に何度も飛行機を利用する人は、さらに血栓症リスクが高まることになる。

また、肥満のほか、身長が190センチ超や160センチ未満の人、さらに避妊薬の服用なども旅行による血栓症のリスクが増大する要因になるという。

WHOは、今回の調査に続く第2段階の調査で効果的な予防措置を提示するとしているが、調査に携わった担当者は「姿勢を変えないことが、最も重大なリスクだ」と指摘。機内でできるだけ体を動かすなどの予防策を呼び掛けている。
(エコノミー症候群、4時間以上のフライトで危険2倍に)


エコノミークラス症候群とは、下肢や上腕その他の静脈(大腿静脈など)に血栓が生じ、この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まる疾患です(急性肺動脈血栓塞栓症ともいいます)。原因としては、脱水、感染、長期臥床、手術などがあります。飛行機の中など、ずっと一定の姿勢でいることで起こりやすいため、エコノミークラス症候群と呼ばれます。

2002年にサッカーの高原直泰選手が、海外への移動に際して(エコノミークラスではなくビジネスクラスだったそうですが)を利用して発病したことや、2004年の新潟県中越地震では、車の中で避難生活を送る人たちの中に、エコノミークラス症候群の疑いで死亡するケースが相次いだことが有名ではないでしょうか。

症状としては、呼吸困難と胸痛があります。そのほか、動悸、冷汗、チアノーゼ、静脈怒脹、血圧低下、意識消失などを生じることがあります。深部静脈血栓症の症状としては、下腿が赤くなり、はれ・痛みなどがあらわれることがあります。

急性肺血栓塞栓症を推定する診断法としては、まず胸部のレントゲン写真や心電図、血液検査などがおこなわれます。ですが、レントゲン写真では一目見てこの病気であると診断できる特徴的な所見がほとんどありません。

血液検査にて、D-Dimerが高値である場合、この疾患を疑います。他にも、血栓で肺動脈が狭くなっていますので、肺動脈へ血液を送り出している右心室に血液がたまり拡大しているのが心エコーで確認できます。急性肺血栓塞栓症の最も特徴的なサインとしては、低CO2血症を伴う低O2血症があげられます。これは、肺動脈が詰まったために生じる肺の酸素取り込み能力の低下と、これに伴って生じる頻呼吸を原因とする、血液からの過剰な二酸化炭素の排出のため起こります。

確定診断としては、造影CTが有用だといわれています。これは、静脈内に造影剤を急速注入し、肺動脈に到達するタイミングに合わせてCTを撮る検査です。比較的簡便で診断能も高い、とされています。

治療としては抗凝固療法(ヘパリン、ワルファリンなどの抗凝固薬が用いられる)、
血栓溶解療法(ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などの血栓溶解剤が用いられる)、血管内治療法(血管内カテーテルを用いて薬剤を注入したり血栓を除去する治療法)などが用いられます。

予防としては、
1.長時間にわたって同じ姿勢を取らない。時々下肢を動かす。飛行機内では、着席中に足を少しでも動かしたりする。
2.こまめに水分を補給する。
3.アルコールを摂取しすぎない(利尿作用で脱水を引き起こすことがある)。
といったことがあげられます。

【関連記事】
「飲んでないのに…」パイロットが飲酒疑惑をもたれたワケ

「旅行しながら禁煙」JTBが禁煙ツアーを企画