「エコノミークラス症候群」の通称で知られる肺血栓塞栓症は、航空機など乗り物の中で長時間、同じ姿勢のまま過ごすと起きやすいことで知られる。新潟県中越地震では、被災地で車中泊をしていた人が多く発症したことが報告された。一方で、病気や出産で入院したときなどにも起きやすいことが、分かってきている。手術で病気が治った直後の突然死。そうならないための予防手段の向上が求められている。

日本血栓止血学会など10学会・研究会は3年前、国内初の予防指針を作成した。指針では、診療科や手術の種類などに応じ、発症リスクごとに予防法を示している。

リスクが低い場合、手術後は早くベッドを離れたり、運動したりする。中程度のリスクでは、弾性ストッキングや、空気圧でマッサージする機械を使う「間欠的空気圧迫法」と呼ばれる方法で足を圧迫し、血流が滞るのを防ぐ。リスクがさらに高い場合には、血液を固まりにくくする抗凝固薬を使う。

指針は公表後3年がたち、改訂の必要性が指摘されている。理由には、機械などを使った予防法を取ったにもかかわらず発症した例があるほか、医師の間で認識の差が依然、大きいためだ。また、国内の臨床試験データを持つ新薬が今春、厚生労働省から初認可され、薬物療法の分野でも見直しが求められている。
(入院でも起きる「エコノミークラス症候群」)


エコノミークラス症候群とは、下肢や上腕その他の静脈(大腿静脈など)に血栓が生じ、この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まる疾患です(急性肺動脈血栓塞栓症ともいいます)。

保険適応がなされるようになってから、術後に「間欠的空気圧迫法」と呼ばれる対策(空気圧で下肢に圧迫するもの)をとる病院が多くなってきたようです。それにもかかわらず、「予防法を取ったにもかかわらず発症した例がある」ほか、「医師の間で認識の差が依然、大きい」とのことです。

症状としては、呼吸困難と胸痛があります。そのほか、動悸、冷汗、チアノーゼ、静脈怒脹、血圧低下、意識消失などを生じることがあります。深部静脈血栓症の症状としては、下腿が赤くなり、はれ・痛みなどがあらわれることがあります。

もちろん、治療が遅れれば死に至ることもあるので、注意が必要です。「エコノミークラス症候群を患ったことがある」などの既往がある方や、既に脳梗塞や心筋梗塞を患ったことのある方、高脂血症の方などは、患者さんの側からも術後に注意なさったり、もちろん、担当医も気を配っているでしょうが、相談なさるといったことが必要になってくるかもしれません。

治療としては抗凝固療法(ヘパリン、ワルファリンなどの抗凝固薬が用いられる)、
血栓溶解療法(ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などの血栓溶解剤が用いられる)、血管内治療法(血管内カテーテルを用いて薬剤を注入したり血栓を除去する治療法)などが用いられます。

ガイドライン作成など、この肺血栓塞栓症へのしっかりとした対策が求められているようです。

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