諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長は16日、平成8年から19年までの11年間に、不妊に悩む夫婦が第三者から卵子や精子の提供を受ける「非配偶者間体外受精」を160組に実施、このうち84人が出産、124人の子供が誕生したことを明らかにした。非配偶者間の体外受精を熱望する現場の声を公表することで、国に実施を可能とする態勢の整備を促したい考えだ。

根津院長によると、非配偶者間体外受精を実施した160組のうち、妻が早い時期に月経が止まる「早発閉経」などのために、第三者から卵子の提供を受けた夫婦は111組。このうち40人が出産し、4人が現在、妊娠中。40人のうち3人は、同様の方法で2回、出産し、生まれた子供は双子10組を含め、53人に上る。卵子提供者は、妻の姉妹87人(うち義姉3人)、いとこなどの親類12人、友人12人。

また、夫が無精子症などのために第三者から精子の提供を受けたのは49組。このうち、44人が出産、1人が現在、妊娠中。44人のうち14人は同じ方法で2回出産し、生まれた子どもは三つ子1組、双子11組を含め、71人となっている。精子提供者は夫の父が24人、兄弟23人(うち義兄1人)、友人・知人2人となった。

根津院長によると、現在も非配偶者間体外受精を希望する夫婦は多いという。しかし、日本産科婦人科学会は非配偶者間体外受精を認めていない。また、厚生労働省は平成15年の報告書で、非配偶者間体外受精を容認するとしたものの、兄弟姉妹からの卵子、精子の提供は当面は認めないとしている。この問題をめぐっては現在、厚労省と法務省の要請で日本学術会議が、生殖医療のあり方を審議している。

根津院長は「不妊に悩む夫婦の痛みや希望に耳を傾け、また、そうした夫婦に接している現場の医師の声を聞いたうえで、国は早期に、非配偶者間体外受精実施可能な体制を整えてほしい」と述べた。
(根津医師、夫婦外の体外受精160組実施を公表)


生殖医療における体外受精(IVFと略されます。In Vitro Fertilizationのことです)とは不妊治療の一つで、通常は体内で行われる受精を体の外で行う方法です。受精し、分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

体外受精の中で、特に胚移植法の適応となるのは、以下の場合です。
1.絶対的適応
 1)両側卵管の器質的障害
 2)精子過少症:500万〜2,000万/ml

2.相対的適応
 1)両側卵管の機能障害:薬物療法、卵管形成術の奏功しないもの
 2)精子異常:2,000万〜4,000万/ml、数回のAIH(人工授精)で妊娠しないもの
 3)子宮内膜症:薬物療法、手術療法の奏功しないもの
 4)頸管因子による不妊
 5)原因不明不妊:抗卵・抗精子抗体を含む。
  不妊期間が3年以上で数年間の積極的治療にても妊娠しないもの

こうしたことで不妊に悩む方々に対して、不妊治療の一つとして、胚移植は行われます。

妊娠率は15〜30%と、けして高いとはいえないのではないでしょうか。ですが、その確率にかけたい、という強い希望をもって治療なさるようです。

ですが、体外受精-胚移植には問題もあり、多胎妊娠(これは現在、日本産婦人科学会では、移植する胚を2〜3個以内に制限するように定めています)や卵巣過剰刺激症候群(OHSSと呼ばれ、無排卵症に対して排卵誘発や体外受精−胚移植などを行うことで発症するもので、卵巣肥大や腹水が起こってしまいます)、子宮外妊娠などが起こってしまう可能性があります。

こうした医学的な問題の他に、倫理的な問題や民法が絡んでくる(戸籍や相続といった問題)わけです。こうした法の絡む事柄の調節や整備を行う前に、夫婦間以外の体外受精を施行することは、早計ではないか、と思わざるを得ません。

問題が起こってから対処する、といったことにも限界があると思われます。不妊で悩む夫婦やカップルは多いと思われますが、子供の将来の問題や親族との問題なども加味して、よく議論してから治療に向かっていただきたいと思います。

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