新潟県中越沖地震で避難している被災者らがエコノミークラス症候群を発症するのを防ぐための検診が28日、柏崎市と刈羽村の避難所計7カ所で行われた。3年前の中越地震では、「車中泊」が原因とみられる同症候群の疑いで3人が死亡している。この教訓から、行政当局やボランティアらが予防を呼びかけたこともあり、今回は車中泊の被災者が大幅に減少した。しかし、避難所での窮屈な生活でも発症する恐れがあり、専門家らは今後も注意が必要としている。

平成16年10月に発生した中越地震では、地震発生後数日が経過しても、余震での住宅の倒壊などの恐れから「家の中に入れない」という被災者らが、車の中で寝泊まりする姿が多くみられた。車中泊の場合、長時間にわたり同じ姿勢を取り続けるため、血液中に血栓が発生しやすくなる。最悪のケースでは、血栓が血管を詰まらせてしまうエコノミークラス症候群を発症する。

今回の中越沖地震でも、発生2日後の18日朝に柏崎市内で42台の車に58人が車中泊しているのが確認された。県は予防を呼びかけるチラシ約2万5000部を配布したこともありその後は徐々に減少、車中泊の被災者は、27日夕時点での柏崎署の調べでは確認されていない。

しかし、車中泊だけではなく避難所での窮屈な生活でも発症の恐れがある。今回の中越沖地震発生後の19〜22日の4日間、新潟大の医師を中心とする対策チームが柏崎市内の避難所で超音波検査を実施したところ、400人のうち26人が同症候群の目安となる脚の静脈に血栓が見つかっている。

柏崎市内などで28日に行われた、エコノミークラス症候群の検診には被災者ら242人が受診し、8人から血栓が見つかった。検診は29日も行われる。
(被災者30人以上に血栓 エコノミー症候群健診)
エコノミークラス症候群とは、下肢や上腕その他の静脈(大腿静脈など)に血栓が生じ、この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まる疾患です(急性肺動脈血栓塞栓症ともいいます)。原因としては、脱水、感染、長期臥床、手術などがあります。飛行機の中など、ずっと一定の姿勢でいることで起こりやすいため、エコノミークラス症候群と呼ばれます(別に、エコノミークラスの乗客のみがなるものではないので、ロングフライト症候群と改名しようという動きもあります)。

2004年の新潟県中越地震では、車の中で避難生活を送る人たちの中に、エコノミークラス症候群の疑いで死亡するケースが相次いだことが上記の通り有名です。やはり同じ姿勢で車内に長時間いることや、十分に水分が摂れないといった状況ですと、発生しやすいと思われます。

今回の被災でもエコノミークラス症候群になられた方がいらっしゃり、車中泊だけではなく避難所でも発生しているということが、特に注意すべき点であると思われます。やはり、今回の中越沖地震は夏に発生したということもあり、どうしても汗によって水分が失われやすく、血液が濃縮しやすく、結果として血栓ができやすくなってしまう、ということもありそうです。

発症した後、症状としては、呼吸困難と胸痛があります。そのほか、動悸、冷汗、チアノーゼ、静脈怒脹、血圧低下、意識消失などを生じることがあります。深部静脈血栓症の症状としては、下腿が赤くなり、はれ・痛みなどがあらわれることがあります。こうした症状が出始めたら、エコノミークラス症候群を疑い、お近くの医療施設や救急センターに連絡をされるべきだと思われます。

治療としては抗凝固療法(ヘパリン、ワルファリンなどの抗凝固薬が用いられる)、
血栓溶解療法(ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子[t-PAとよばれます]などの血栓溶解剤が用いられる)、血管内治療法(血管内カテーテルを用いて薬剤を注入したり血栓を除去する治療法)などが用いられます。

予防としては、
1.長時間にわたって同じ姿勢を取らない。時々下肢を動かす。着席中も、足を少しでも動かしたりする。
2.こまめに水分を補給する。
3.アルコールを摂取しすぎない(利尿作用で脱水を引き起こすことがある)。


といったことがあげられます。
予防を呼びかけるチラシを、約2万5,000部を配布したことで、徐々に減少されてきているということからも、震災の尊い犠牲を教訓にし、これ以上、犠牲者を出さないようにという気概が見受けられます。是非、これからも助け合いの精神で被災を乗り越えていただきたいと思います。

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