流産を繰り返す「習慣流産」の患者に、体外受精による受精卵を子宮へ戻す前に調べる着床前診断を実施した北九州市のセントマザー産婦人科医院(田中温院長)で、2組の夫婦が妊娠し年内に出産予定であることが分かった。日本産科婦人科学会(日産婦)が昨年4月、着床前診断の対象を習慣流産に拡大後、同学会への申請・承認を経た初の妊娠とみられる。30日に仙台市で始まる日本受精着床学会で発表する。

妊娠中なのは、これまでに3回の妊娠がすべて流産した妻30歳、夫29歳の夫婦と、妻32歳、夫30歳の夫婦。2組とも、夫婦のいずれかが「染色体転座」と呼ばれる染色体異常を持つことが原因で流産を繰り返していた。

同医院はこれまでに、日産婦の承認を受けた習慣流産の夫婦5組に着床前診断を実施した。染色体に異常がない受精卵が確認され、子宮に戻した4組のうち3組が妊娠したが、1組は流産した。妊娠が続いている2組の胎児は染色体も正常で、順調という。

習慣流産の着床前診断については、神戸市の大谷産婦人科や長野県下諏訪町の諏訪マタニティークリニックが日産婦の承認を得ず実施。問題になっている。
(着床前診断:学会承認受け初の妊娠 習慣流産の2組)


日本産科婦人科学会では「妊娠22週未満の妊娠中絶を流産」と定義し、22週以降の場合「死産」と定義されています(特に、妊娠12週未満の流産を「早期流産」、妊娠12週以降22週未満の流産を「後期流産」といいます)。

母胎側の問題としては、以下のようなものが問題となります。
・感染症
・子宮の異常(子宮頸管無力症、子宮奇形、子宮筋腫など)
・黄体機能不全、高プロラクチン血症
・内分泌疾患
・膠原病(SLEや抗リン脂質抗体症候群など)

さらに、胎児側の問題としては染色体の異常や遺伝子病が問題となります。

夫婦間の因子としては、以下のようなものも原因とされています。
・免疫異常(免疫応答の異常など)
・血液型不適合

今回の場合は、染色体異常を持つことが原因で流産を繰り返していたようです。
上記の着床前診断(受精卵診断)は、受精卵が子宮に着床して妊娠が成立する前に、受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかどうかを調べる医療技術です。

この診断を受けた最初の赤ちゃんの誕生が1990年に報告され、以降世界中で約10,000人の元気な赤ちゃんが着床前診断を受けて生まれているそうです。

着床前診断手術では、染色体異常をもつ受精卵は母体に移さず、"正常"な受精卵のみを移す、ということを行います。染色体に異常がない受精卵が確認され、子宮に戻した4組のうち3組が妊娠しており、2組は順調とのことで、やはり効果があったと考えられます。

不妊にお悩みのカップルや夫婦にとって、一縷の望みとなっている現状を考えると、今後も着床前診断が行われていくと思われます。たしかに、倫理的に問題を含んでいる領域ですが、こうした不妊治療や重篤な遺伝病に関しては、着床前診断がその存在意義を存分に発揮していいのではないか、と思われます。

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