精子と卵子を結合させる通常の受精とは違い、雄の関与なく雌の卵子だけから、マウスを高い確率で誕生させることに、河野友宏・東京農業大教授らのチームが成功した。この実験の成果は、米科学誌ネイチャーバイオテクノロジー(電子版)に19日付で発表した。

河野教授らは2004年、世界で初めて卵子だけからマウス「かぐや」を誕生させたと発表したが、成功率は低く0・5%。今回は卵子の遺伝子操作を改良することで、成功率を体外受精並みの約30%にまで高めた。
 
哺乳類の遺伝子には、父母のどちらから受け継いだかによって働いたり、働かなかったりする「インプリント(刷り込み)遺伝子」がある。チームは、精子から伝わった場合にしか働かない2つのインプリント遺伝子を、卵子でも働くように操作し、いわば「雄型」の卵子をつくった。この卵子の核を別の卵子に注入し、受精卵のような状態にして、代理母役のマウスの子宮に移植した。

約90個を移植した結果、42匹の雌マウスが生まれ、うち27匹(約30%)がおとなに成長。やや小ぶりなものの、ほかは正常なマウスと変わりなく、5匹は子も産んだ。「かぐや」も同様の手法で生まれたが、操作した卵子のインプリント遺伝子は一つだけだった。

河野教授は「精子と卵子の機能の違いを遺伝子レベルで解明できた。今回の方法を人に応用することが許されないのは当然のことだ」と話している。

石野史敏東京医科歯科大教授(分子生物学)の話 「マウスの卵子の遺伝子を操作し、父型のインプリントに似せた遺伝子の働きを再現することで、哺乳類の発生には、父型と母型の両方の遺伝情報が必要なことを示した実験だ。自然界の鳥類や魚類の一部では、母親由来の情報しか伝わらない単為発生が見られるが、哺乳類ではそのような単為発生で子供は生まれないことを証明した素晴らしい業績だ」
(“雄なし”出産、マウスで成功率30%にアップ)


結局の所、単に卵子だけの遺伝子だけでは発生は難しく、「哺乳類の発生には、父型と母型の両方の遺伝情報が必要」ということが明らかになった、ということのようですね。

哺乳類では、こうしたオスおよびメスがともに生殖には必要とすることで、多様性を生み出してきた、と考えられます。この遺伝的多様性により、環境への適応をスムーズに行うことができた、とも考えられます。

ですが、「精子から伝わった場合にしか働かない2つのインプリント遺伝子を、卵子でも働くように操作し、いわば"雄型"の卵子を作る"という驚くべき手法により、卵子を"騙す"ことで成功率を上げた、とのこと。今回の成果としては、それぞれの機能も徐々に明らかにされてきた、ということもあるでしょう。

今後は、分子生物学的にさらなる解明が進むと思われます。生殖医療において、大きな進歩をもたらしてくれるのかも知れない、大きな注目を集める研究であると期待されます。

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