厚生労働省は、医師の過不足に応じ、病院間で機動的に医師を融通しあう制度を新たに作る検討に入った。都道府県単位で医師の勤務状況を点検。自治体の仲介で余っている病院の医師を足りない病院に派遣する。28日の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論を始め、派遣期限や雇用形態などを詰める。一部の地域や診療科で深刻化している医師不足の解消が狙い。
 
現在の医師融通は、系列大学病院や親密病院同士で実施されている。このため、客観的なデータに基づく医師の過不足の全体像は把握できておらず需給のミスマッチが発生。「機動的に病院間で医師を派遣し合えない」(厚労省)状況だ。
(医師派遣、自治体仲介で――厚労省で新制度検討)


現在の研修制度がスタートする前は、大学病院の医局が非常に大きな権力を持っており、医局に所属していないと就職が難しかったため、否応なしに「とりあえず医局に所属して、上の先生が決めた派遣先(病院)に勤務する」ということがあったようです。ですが、現行の制度になり、研修先を自分で決めることになり、医局の権限が次第に小さくなっていきました。結果、今のような医師の偏在化が進んだため、地方の医師不足が起こってきました。

一方では、医局の権限が低くなり、その反対に医師の自立性が高まり、「自分の目指す医師像を追求する」といったことが可能になったわけです。つまり、その病院に勤務するもしないも(もちろん、倍率の高いポストの狭い病院は難しいでしょうが)、自由度の幅が広がった、ということになったわけです。

その一方で、問題となる医師の偏在による「地方の医師不足」という問題が起こってきました。そこで、厚労省は時計の針を戻し、医局の代わりに自治体に権限を持たせ、派遣システムを実行しようとしています。

ですが、このシステムが機能するとは、とうてい思えません。少なくとも、これで医師不足が解消されるとは思えないのです。

まず、第一点目の問題としては、「勤務実態を正確に把握する」なんてことができるのか、という問題です。病院からしてみれば、医師を、おいそれと派遣したくないのが実情ではないでしょうか(不要だったら、雇っていないでしょう)。

となると、勤務状況に関するデータを"正確に"都道府県に伝えるとは思えません。悪く言ってしまえば、虚偽の報告をする、ということです。その報告を元に都道府県が考えれば、「派遣できる(余った)医師がいない」という判断にならざるをえないのではないでしょうか(普通に考えて、病院は「余っている医師がいる」なんて言わないでしょう)。罰則規定などがないかぎり、調査が正確なものとはなりえないように思えます。

第二点目の問題としては、「医師が、簡単に派遣命令に従うのか」という問題があります。医局ですら権限が低下している昨今、簡単に勤務している病院の命令に従うとは思えません。イヤなら辞めて、新たな就職先を捜すだけではないでしょうか。そもそも、へき地などへの勤務を希望するなら、最初からそこへ就職しているでしょう。希望に反することを強制しようとしても、難しいのでしょう。

果たして、このシステムが施行されて、どれくらいの医師が派遣されるでしょうか。それ相応の報酬や対価がなくては、首を振る医師は少ないと考えられます。そうなると、都道府県や自治体の財政圧迫をもたらす結果になり、結局は「金による解決」という自体になりかねないのではないでしょうか。

こうしたシステムを提案する前に、しっかりとした調査はなされたのでしょうか。そして、実現可能性はどれくらいだと見積もったのでしょうか。疑問が残ります。

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