命を拒む赤茶けた土と水が、やせた農村を覆っていた。中国広東省の北部にある人口320人の涼橋村。かつて豊かな恵みをもたらした母なる川は、重金属を含む汚泥を運び込む死の川に変わった。中国全土で20あるとも50あるとも言われる「がんの村」。ここもその一つだ。北京五輪が1年後に迫った8月、急激な経済発展の陰でうめく「沈黙の大地」を訪ねた。人口1000万人の省都・広州市から約160キロ。車で3時間ほど走った山あいに村はあった。

「魚が何匹いたかって? 数えきれないほど、たくさんいたんだ」
中国共産党の同村支部書記、何保芬さん(44)がまくしたてた。足元のひび割れた土の下には、かつて深さ1メートルほどの養殖池があったという。

赤茶色の正体は、約30年前から操業している上流の鉱山から流れ出す排水や汚泥だ。色の原因になっている鉄分だけでなく、カドミウムや鉛、亜鉛などが含まれ、生き物がすめないほどの強酸性だ。それが大雨の度に養殖池や田畑に流れ込む。

この20年ほどの間に亡くなった村人の約8割はがんが死因だったという。下流域も似た状況だ。だが、本格的な疫学調査は行われておらず、汚染との因果関係は今も確認されていない。中国政府は環境重視の政策を打ち出し始めているが、この村に具体的な救済策は見えないままだ。

「日本の新聞が取材に来たのは初めて。この村で起きていることを多くの人に知らせて」。案内してくれた女性が訴えた。私が見た被害は、ほんの一部にすぎなかった。
(重金属汚染の涼橋村 村民の死因、8割はがん)


重金属とは、比重が4〜5以上の金属元素のことです。一般的には鉄以上の比重を持つ金属の総称となっています。代表的なものとしては、鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマスなどが挙げられます。

未処理の工業排水などが濃縮され、河川の水を汲み上げて農地に使用すれば、それらの土壌には重金属をはじめとする有害物質が蓄積される。結果、そこで農耕を展開すれば、重金属の濃度が高い野菜が現れてきます。また、汚染された河川やその水が流れ込む海に住む魚を食べることで、健康被害が現れることもあると思われます。

ちなみに、重金属の中で鉛は、体内に蓄積されるため、微量でも摂取し続けると、慢性的な中毒を引き起こすことが知られています。症状としては、貧血や筋肉衰弱のほか、脳障害、腎機能障害などを起こします。妊婦や小児が摂取することでは、より大きな問題となると思われます。

発ガン性と関連していると思われるのは、カドミウムが有名でしょう。カドミウムとその化合物は、IARC(国際がん研究機関)のグループ2Aに分類され、人に対する発ガン性の可能性が極めて高いとされています。

現地の方々は、健康被害を受け続けながらも、そこに暮らさなければならないということなんでしょう。そのことに対する補償や、もしかしたらこうした汚染の事実すら隠蔽されているかもしれません。

経済発展も必要ですが、こうした方々が犠牲になっている上に成り立つ発展は、はたして歓迎すべきものなんでしょうか。また、自国に向けられる目というものは、果たしてどのようなものになるのでしょうか。一度、立ち止まって考える時期にあるのではないでしょうか。

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