インフルエンザ治療薬タミフルに脳細胞を興奮させる作用があることを、米ワシントン大学(ミズーリ州)の和泉幸俊教授(精神医学)らがラットを使った実験で初めて明らかにした。内容は10月9日発行の医学専門誌「ニューロサイエンス・レターズ」に掲載される。 タミフル服用と異常行動の関係については、タミフルを飲んだ10代の子が自宅マンションから飛び降りて死亡するなどの問題が相次いだ。

和泉教授らは、ラットの脳から取り出した神経細胞を、タミフルと、タミフルが体の中で分解された時にできる薬効成分のOCBという化学物質の水溶液にそれぞれ浸した。すると、どちらも約10分後に神経細胞の活動が過剰に盛んになった。各薬物を洗い流した後も、40分以上神経細胞の興奮は続いた。タミフルそのものよりも、OCBの方が約30倍も作用は強かった。人間で未成年に異常行動が相次いでいるため、今回は思春期前の子どもに相当する生後1カ月の幼いラットの神経細胞を使った。

また、エフェドリンという風邪薬に含まれる成分や、アルコールを、タミフルと同時に幼いラットに摂取させると神経興奮作用が強まることもわかった。

脳には、血中の物質を脳内に通すかどうかを選別する血液脳関門という脳を守る特別な機能があるが、エフェドリンやアルコールは、血液脳関門のガードを緩めることがわかっている。

和泉教授は、思春期前の子では血液脳関門の機能が未熟であることや、ガードを緩める作用があるものと一緒に飲むことで、タミフルが関門をすり抜けて脳に到達し、神経細胞に作用するのではないか、と推測している。

タミフル輸入販売元の中外製薬広報IR部の話 現在、厚労省の指示に従いながら、タミフルや代謝産物が血液脳関門を通るかどうかなどの基礎研究を進めているところだ。
(タミフルの脳への興奮作用、ラットで実証 米の邦人教授)


当初、インフルエンザ脳症との鑑別が難しいとのことから、タミフルの異常行動と断定することが難しかった、という事例が国内で問題となりました。

ですが、インフルエンザ治療薬「タミフル」服用後に家を飛び出そうとするなどの異常行動を起こした女児が、その後の検査で、インフルエンザではないとの結果が出たことがありました。結果、タミフルの影響を示す例として注目されました。

今回、科学的裏付けが出てきたことで、よりタミフルの副作用による異常行動が確実に存在するものと考えられそうです。

他にも、タミフルの副作用を調査する研究費に、輸入販売元の中外製薬の資金が使われていたことが分かり、被害者からは厚生労働省や研究班への批判の声が上がりました。

現在、厚生労働省はタミフルの輸入販売元の中外製薬に対し「10代の患者には原則として使用を差し控えること」と添付文書の警告欄を改訂し、緊急安全性情報を医療機関に配布するよう指示しています。副作用である異常行動という大きな問題がある、としっかりとした認識の元に、投与が行われることを望みます。

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