保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を受けると、医療費の全額に保険が適用されないのは違法として、腎臓がんの男性が、保険が適用されることの確認を求めた訴訟の判決が7日、東京地裁であった。定塚誠裁判長は「保険が適用されない法的な根拠はない」と述べ、男性の請求を認めた。混合診療の保険適用を容認する司法判断は初めて。

混合診療の保険適用をめぐっては、一部の患者が求める一方、厚生労働省や日本医師会は反対しており、今回の判決は議論に一石を投じそうだ。

訴えていたのは神奈川県藤沢市の清郷伸人さん(60)。訴訟では、保険適用外治療を併用することで、本来は保険が適用されるべき治療まで適用外になる法的根拠は何か−が争われた。

定塚裁判長は、健康保険法が、保険適用となるケースについては「診察」「薬剤」「治療」などを挙げるだけで、具体的な内容は定めていないと指摘。「保険診療に、それ以外の診療を併用した場合、保険が適用されなくなると解釈できる根拠はおよそ見いだせない」と判断した。

その上で「受けた診療に保険が適用されるかどうかについては、併用した診療すべてを一体として判断するのではなく、個別の診療ごとに判断すべきだ」と述べ、「清郷さんには保険診療であるインターフェロン治療を受ける権利がある以上、それ以外の診療を併用しても保険を受ける権利がある」と結論付け、国の主張を退けた。

国は「保険は、安全性や有効性、普及性などの水準が保証された医療行為に適用される」とした上で、「保険診療とそれ以外の診療が併用された場合は一体の医療行為と見るべきであり、保険診療には該当しなくなることから、患者の全額負担となる」と主張していた。

判決によると、清郷さんは平成13年9月から、腎臓がん治療のため、神奈川県立がんセンターで、保険適用対象のインターフェロン治療に加えて、保険が適用されない「活性化自己リンパ球移入療法」を併用したため、インターフェロン治療についても全額負担すべきだとされた。
(混合診療も保険適用「全額自己負担、根拠なし」)


混合診療とは、日本の医療における保険診療に保険外診療(自由診療)を併用することを指します。保険診療において保険外診療(自由診療)を併用することは原則として禁止されていますが、禁止する明文化された規定は存在しません。

上記の通り、通常であれば健康保険(政府管掌健康保険、組合管掌健康保険、国民健康保険)が適用される診療内容にそれ以外の保険外診療が加わった場合、保険外診療分に加えて本来健康保険からの給付対象分を含めた医療費支払いの全額が患者の自己負担となります。

では、この判決に対する国の対応としては、以下のようなものになっています。
舛添要一厚生労働相は9日午前、閣議後の記者会見で、全額自己負担とした国の法的判断は誤りとして、医療保険の一部適用を認めた東京地裁判決について「(混合診療の)基本的な原則は曲げない」と述べ、控訴する方針を明らかにしています。

未承認薬や先端医療を公的医療保険の適用対象と認めない理由については、「有効性、安全性で新薬承認をする。薬害が起きてはいけない」とのことで、混合診療を認めない方針としているようです。

たしかに、こうしたものに対しても保険適応を認めてしまった場合、非常に財政を逼迫してしまったり、危険性を伴った治療などを試す人が多く出てしまうことが考えられます。しかしながら、その一方で未承認薬や先端医療を受けたい患者や経済界からは混合診療の解禁を求める声が上がっています。

まだ地裁においての判決であるため、今後の動向は不透明ですが、注目される裁判であることは間違いなさそうです。

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