「ライブ、できんわ」−。末期の胃がんと闘いながらステージに立ち、8日にがん性腹膜炎のため35歳の若さで死去したジャズボーカリスト、石野見幸さんはこう悔やんでいた。闘病中に最愛の父を失う悲しみに見舞われながらも歌い続けた石野さん。延命治療は拒んだが、歌への思いは変わらなかった。

石野さんは幼い頃から胆管拡張症で入退院を繰り返した。それを克服しシンガーになったが、31歳でがんが判明し、胃の4分の3を摘出。昨年9月にがんが再発し、「余命1カ月」と宣告されたが、昨年12月に痛み止めを打ってディナーショーに出演し、3時間以上にわたり18曲を熱唱した。

昨年末から抗がん剤治療治療を始め、今年元旦には自身のブログで≪夢も捨ててはいません。今年はブルーノートでライヴすること、二枚目のアルバム、そしてこうして出逢えた皆が幸せに過ごせる事!≫とファンに向けて新年の抱負を語り、「同じ境遇の人を元気づけたい」とテレビ取材などにも積極的に応じていた。

だが、最愛の父が4月25日に脳卒中で亡くなったのだ。石野さんは5月5日のブログで≪私を世界で一番愛してくれた人がいなくなっちゃった≫とつづったが、ステージへの思いは変わらなかった。
(石野見幸さん35歳で死去 ブログでつづった胸中とは)


迫ってくる死を考えた場合、自分だったらどのように余生を過ごすのか。まだ35歳という若さで、自分自身の先が短いという事実を突きつけられた場合、彼女のように強く生きていくことができるのか、といったことを考えさせられました。

自分の生きた証を何とかして残したい、とは思いますが、闘病を行いながらは非常に難しいと思います。ちょっとしたことでも多分、心が折れてしまうのではないか、なんて情けないことを想像してしまいました。

広義での意味では、胃癌は胃粘膜上皮から発生した癌腫(狭義の胃癌)と、上皮以外の組織から発生したがん(胃平滑筋肉腫・GIST・胃悪性リンパ腫など)の両方を含みますが、一般的には前者の方を指すことが多いように思います。

胃癌による死者数は、年々減少していますが、2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位とまだ死亡率の高い疾患です。

石野さんが若い女性であることを考えると、以下のようなことが考えられます。
胃癌は50〜60歳の男性に多いですが、いわゆるスキルス胃癌(Borrmann4型)のみは、若い女性に多いと言われています。他の胃癌は粘膜から発生し、腫瘤を形成していくのに対し、スキルス胃癌は粘膜下に浸潤していくので、みつけにくいとされます。

スキルスとは、日本語で硬癌となり、胃の全体が変形して固くなるためにこうした名前になっています。胃カメラでは発見しにくいのが特徴で、むしろバリウムを飲む胃透視で分かることがあります。

スキルス胃癌の予後が悪く、手術をしても再発率は非常に高くなっています。再発の形式としては、リンパ節再発、腹膜再発が多く、腹膜再発は癌性腹膜炎となり、治療の効果は非常に低く、癌の末期状態という状態です。

胃癌の治療方針は、腫瘍の大きさ・部位・拡がり、病期、全身状態、あるいは患者の希望など様々な要素を勘案し決定されます。治療法は、外科療法(手術)が中心となり、他に化学療法があります。

石野さんは手術、化学療法で治療を行ったようですが、すでに転移をしており、非常に厳しい状況であったと思われます。しかしながら、彼女の残したもの、そして最期の生き方に、学ぶべきことが多くあったように思われます。

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