医学部の学生で過去に産婦人科医を志したことのある人は全体の29%いるにもかかわらず、現在第1志望にしている学生は全体の4%、第3志望まで含めても14%にとどまり、多くは「勤務実態」や「訴訟リスク」を理由に挫折していることが15日、横浜市立大の医学部学生が実施した調査で分かった。

志望しない人が「産婦人科医になってもいい条件」として挙げたのは「適正な当直回数」や「刑事責任に問われない」が多く、医療を取り巻く厳しい環境が学生の進路希望にも影響し、産科医不足に拍車が掛かる状況が浮き彫りになった。

調査は同学部医学科1〜6年の361人を対象に実施し、応じた307人(回答率85%)と他大学13人の計320人の回答を分析した。

産婦人科を目指したことがあるとしたのは1年20%、2年18%、3年25%、4年37%、5年32%、6年47%と学年が上がるほど高率。理由として「命の誕生という感動にかかわることができる」「時代や国を問わず必要とされる」などが挙がり、6年は「実習で楽しかった」も目立った。

しかし、一度は産科医を志望した学生の約半数が進路を変更。その理由として勤務実態(当直回数、勤務時間、育児との両立困難)や訴訟リスクが高いことが挙がった。

調査結果は、17日に同学部で開かれるシンポジウム「STOP the 妊婦たらい回し」で発表される。シンポジウムでは、結果を基に、学生が現場の医師らと意見交換。産科医不足を実感したことがあるかなどについて、妊産婦約100人に実施した調査結果も発表する。

企画した医学科3年の武部貴則さん(20)は「問題の改善には、医師や行政だけでなく市民にも果たす責任がある。患者と医師の間に立つ学生の考えを伝え、医師不足などについて考え直すきっかけになれば」と話す。
(産科医は「ツライから嫌」 横浜市大生が調査)


上記の産婦人科を目指したことがある、と回答した学生は比較的多く、しかも学年が上がって実習を経て「目指したことがある」学生が増えていくことは、魅力ある科であることを示していることのように思います。

しかしながら、約半数が、勤務実態(当直回数、勤務時間、育児との両立困難)や訴訟リスクが高いことを理由に進路を変更してしまいます。もちろん、その選択を否定することや、批判することはすべきではないと思います。

こうした学生の選択を反映するかのような結果が出ています。弘前大学医学部の産婦人科医師がまとめた結果によると、2007年度の医学部産婦人科入局見込み者は、東京都73人、関東(東京都を除く)28人、大阪府10人、中部36人、九州14人、東北8人、北海道5人など。東北地方八人の内訳は、弘前大学0、岩手医科大学2人、東北大学0、秋田大学1人、山形大学1人、福島県立医大4人となっており、先細りになっていく様子が考えられます。

この原因としては、過重勤務、訴訟の多さなどにより産婦人科を敬遠する傾向が強まったことや、研修先を選択できるようになった卒後臨床研修制度により、若手医師の都会志向や大学病院離れが一気に顕在化したものと考えられます。

そこで、こうした「学生離れ」を回避するため、以下のような取り組みがなされています。
金沢大学医学部付属病院内にある「周生期医療専門医養成センター」では、特別なプログラムがあり、学生が選択して学べる課外活動を行っているそうです。講義よりも実践を重視し、分娩の模擬訓練や石川県内外の病院・診療所と提携し、学生が分娩の直接指導も受けられるようにしたそうです。

センターには現在、医学部の5、6年生9人が在籍し、課外活動の扱いにもかかわらず、学生らは学部の授業や実習の合間をぬって、プログラムに参加しているそうです。このプログラムでは、産科などの魅力を伝えるのがねらいだそうです。

こうした活動がどれほどの効果をもっているかは、まだ不明ですが、確実に「興味はあるけど…」と躊躇っている学生に、魅力を伝える場にはなっていると思われます。その結果、志してくれる学生が生まれてくるかも知れません。

たしかに忙しく、過酷な労働環境を改善する社会的な取り組みも重要であるとは思いますが、学生の興味を惹きつけ、魅力ある科であることをアピールする方法も、考えることが必要であると思われます。

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