冬虫夏草の一種サナギタケに放射線のイオンビームを照射し、抗がん作用が期待されている化学物質「コルジセピン」を通常より約10倍分泌する突然変異体を開発することに、福井大学大学院の榊原三樹男教授(生物応用化学)らの研究グループが16日までに成功した。

コルジセピンは細胞のがん化を抑制する働きがあるとされ、現在米国立がん研究所(NCI)が効果を検証している。1グラム数10万円とも言われるが、研究グループによると、突然変異体の培養液を精製すれば、安価に大量生産できるという。

漢方薬として知られる冬虫夏草は虫のさなぎに寄生して育ったキノコ。冬虫夏草の中でもコルジセピンをよく分泌するサナギタケを利用した。

まず、エックス線などほかの放射線より強く、DNA構造に大きな変化をもたらすイオンビームをサナギタケの菌糸体に照射し、突然変異を誘発させた。

さらに有望な突然変異体を培養液で育てスクリーニング(選抜)を続けた結果、今年8月までにコルジセピンを通常のサナギタケの約10倍、培養液1リットル中7〜8グラム分泌する突然変異体を生み出すのに成功したという。
(冬虫夏草から抗がん期待成分を10倍分泌に成功 福井大大学院)


コルジセピン(cordycepin) は、核酸系の抗生物質の1つです。作用機序は、DNAやRNA合成阻害作用があると言われています。そのため、悪性細胞の増殖抑制する効果やアポトーシスを誘発する働きがあると考えられている成分です。

ただ、採取物の薬理活性のばらつきは非常に大きく、安定した活性を期待することが難しく、また、冬虫夏草自体を天然から大量に入手することが非常に困難であるということからも、上記技術は非常に有用なものであると思われます。

イオンビームは、水素イオンや炭素イオンなど(イオンとは、ヘリウムのような、原子や、酸素のような分子が正、または負に帯電した粒子)、色々な原子のイオンをサイクロトロンやシンクロトロンなどの加速器を使って高速に加速したものです。イオンビームは粒子線ともいわれ、腫瘍に対する放射線治療にも使われています。

イオンビームの利用については、以下のようなものがあります。
イオンビームを始めとする放射線を使った植物の品種改良は、以前から行われています。1987年に旧日本原子力研究所(原研)が中心となって、放射線高度利用研究計画が策定され、イオンビームを用いた材料・バイオ技術研究のための専用施設が整備されたのがきっかけとなって、植物への影響に関する基礎研究が盛んに行われるようになりました。

放射線による品種改良には、以下のような利点があります。
・存在しない新しい形質を作り出せる。
・優良形質を損なわずに目的形質のみを改良できる。
・交配が難しい作物でも改良ができる。

今回の発見は、こうした利点を生かすことで成果が得られたと思われます。今後、このコルジセピンの免疫への作用や抗腫瘍効果によって、治療に生かすことができれば、と期待されます。

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