理化学研究所(埼玉県和光市)は、アルツハイマー病の発症に関与する異常タンパク質の脳への蓄積が、老化に伴う記憶障害の原因にもなっていることを高島明彦チームリーダーらがマウスの実験で、16日までに確認したと発表した。

記憶障害を手掛かりに、異常タンパク質の蓄積を早期に見つけられれば、将来はアルツハイマー病の予防にもつながり得るという。欧州の専門誌に論文が掲載された。

このタンパク質は「タウ」と呼ばれ、記憶障害や認知障害が起きるアルツハイマー病では、過剰にリン酸化された異常な形で記憶をつかさどる脳の海馬や大脳皮質の神経細胞に沈着する。一方、通常の老化でも「嗅内野」と呼ばれる、記憶の形成にかかわる脳の特定部位に異常なタウが沈着することが知られていたが、記憶障害との直接の関連は未解明だった。

高島さんらは、遺伝子操作で人間のタウを持たせ、老化すると記憶障害を起こすマウスに対し、深いプールを繰り返し泳がせ足場の場所を探させる記憶力テストを実施。生後20カ月以上の老齢マウスは場所をなかなか覚えられず、記憶力の低下が起きていることが分かったが、このマウスの脳には、完全な沈着まではいかないものの異常なタウが蓄積しており、それで神経活動が低下していたらしいと分かった。

高島さんは「異常タウは、沈着する前なら薬などで元に戻せる。いかに早期に発見できるかが課題だ」と話している。
(アルツハイマー関連物質 老化の記憶障害にも関与)


アルツハイマー病の病態としては、上記のようにアミロイド仮説が有力視されています。これは、βアミロイドというタンパク質が、記憶にかかわる海馬や大脳皮質の部分に沈着することで神経細胞が死滅し、発症すると考えられています。

脳の神経細胞で作られるタンパク質〔アミロイド前駆体蛋白質(APP)〕が切断され、その断片の一部がアミロイドβ蛋白質(Aβ)になります。アミロイドβ蛋白質は互いにくっつきやすく、これが脳内に蓄積することで脳の中に老人斑がつくられます。この老人斑は神経細胞を死滅させて、その結果としてアルツハイマー病が発病すると考えられています。

具体的には、以下のような流れでアルツハイマー病が発症してくるとされています。
最近では、脳内のβアミロイド蓄積 → タウ蛋白蓄積 → 神経細胞の変性・機能不全 → 神経細胞死の過程で起こることが研究で明らかになってきました。βアミロイドが放出され、それが細胞外に沈着し(老人斑)、細胞外にあるアミロイドは神経細胞に作用し、タウ蛋白をリン酸化して神経原線維変化と神経細胞死を引き起こすという考え方です。

こうした研究に則って、以下のような治療戦略が考えられています。
1)セクレターゼ阻害剤
→アミロイドベータ蛋白質の産生を抑制することによるアルツハイマー病治療の試みが検討されています。アミロイド前駆体蛋白質を切断するセクレターゼ酵素(βセクレターゼ・γセクレターゼ)の阻害剤を患者さんに投与すれば、アミロイドβ蛋白質の産生が抑制されてアルツハイマー病が改善するのではないかという考えです。
2)アミロイドβ蛋白質ワクチン
→ワクチンによる予防や治療法も大きく期待されています。この方法はアミロイドβ蛋白質をワクチン(免疫原)として患者さんに投与し、体内でのアミロイドβ蛋白質に対する自治の産生を高めさせ、免疫の働きを利用してアミロイドβ蛋白質の除去を促進させるという治療法です。
3)金属イオンキレーター
→アミロイドβ蛋白質の凝集を促進する銅・亜鉛イオンの除去剤(キレーター)を患者さんに投与すれば、老人斑の形成が抑制され、アルツハイマー病治療につながるのではないかという考えも提出されています。

現在では、
・AChE阻害薬:ドネペジル(アリセプト®)、投与タクリン、リバスチグミン、ガランタミン、α-tocopherol(ビタミンE)
・MAO-B阻害薬:塩酸セレギリン(エフピー®)
といったものが治療法として用いられています。今後は、より有力な治療法が出てくるのではないか、と期待されています。

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