神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)の30代の女性医師が、毒薬に指定されている筋弛緩剤を使って手術室内で自殺していたことが21日、分かった。
 
市などによると、18日午後1時10分ごろ、職員が病院内の手術室で点滴を打った状態で床に倒れている医師を発見した。間もなく死亡が確認され、病院が神戸水上署に届け出た。
 
手術室内の保管庫にあった筋弛緩剤「マスキュラックス」を自分で投与した形跡があった。遺書は見つかっていないが、精神的に不安定な状態が続いていたという。市の担当課は「薬の管理に特に問題はなかった」としている。
(30代女医、手術室で自殺 筋弛緩剤投与か)


筋弛緩薬とは、神経・細胞膜などに作用して筋肉の動きを弱める薬です。骨格筋の弛緩を生ずる薬物には、末梢性に運動神経筋接合部に作用するものと、中枢神経に作用するものがあります。

筋弛緩薬は、全身麻酔導入時や手術の際に用いられます。気管内挿管や、筋緊張が術野確保の障害となる場合、手術侵襲による反射的筋収縮の抑制などのために用いられます。ほかにも、骨折を整復するときや痙攣やジストニアなどの不随意運動の抑制にも用いられます。

運動神経筋接合部に作用するものとしては、以下のようなものがあります。
1)終板に作用して、神経インパルスによって遊離したアセチルコリン(ACh)と競合的に拮抗するもの
→d‐ツボクラリン、ガラミンなど

2)終板を持続的に発火域値以上に脱分極させてAChの作用を遮断するもの
→デカメトニウム、サクシニルコリン(電気痙攣療法の際の筋弛緩などにも適応)など

3)運動神経終末に作用してAChの遊離を抑制するもの
→ボツリヌス毒素(眼瞼痙攣やジストニアなどに適応がある)、プロカインなど

他にも、悪性高熱症、悪性症候群の治療に使われるダントロレンナトリウムなどが有名どころです。
また、中枢性筋弛緩薬としては、以下のようなものがあります。
1)脊髄の介在ニューロンに作用
→メフェネシン

2)脊髄より上位の中枢神経系に作用する(パーキンソニズムの振戦、筋硬直などに応用される)
→トリヘキシフェニジル、フェノチアジン誘導体およびベンゾトロピン


しかしながら、筋弛緩剤点滴事件のように用法・用量を間違うと、以下のような問題が起こってしまいます。
正しく用いられない場合、呼吸不全などの重篤な症状を来たし、死に至る場合があります。術中にも用いられますが、筋弛緩薬の残存は低換気・気道閉塞・咽頭反射の低下などを起こし、術後呼吸抑制の原因となることがあります。筋弛緩薬を使用する場合は過剰投与を避け、術後は筋力が十分回復するまで呼吸状態を観察することが大切であるといわれています。 

上記ニュースで使われていた「マスキュラックス」とは、臭化ベクロニウム静注用の筋弛緩剤です。これは、神経筋接合部(NMJ)におけるアセチルコリン受容体を遮断する、非脱分極性筋弛緩薬であるといわれています。

この薬剤は、神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害することにより呼吸筋を含めた全身の筋肉の動きを止めます。本来は、全身麻酔による手術時のときに、不都合な筋肉の固さを取る(気管内挿管や、筋切断に必要)ために人工呼吸下に使われるものです。もちろん、自発呼吸が回復するまで、調節呼吸を行うことが必要となります。

医療現場では、筋弛緩薬だけでなく保管に注意を要する薬品が多く存在します。管理システムに関して、再考されることが望まれます。

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