手術後の声帯まひは、発声困難だけではなく、飲み物が気管に入ってせき込む原因になり、肺炎につながる恐れもある。

千葉県内に住むBさん(69)は、頸動脈の内側が狭くなって、時々、脳への血流が不十分になり、わずかな時間、意識をなくす症状が表れた。そこで今年3月、左の頸動脈を切開して、詰まったコレステロールなどを取り除く手術を受けた。症状は消えたが、声がかすれて、聞き取れない状態になってしまった。

民生委員や社会福祉協議会の仕事を引き受けているBさんは、会議が多い。「発言したい。でも伝わらない」。地域の役に立ちたいと思って始めた仕事が、苦痛になった。

血管の詰まりを防ぐため、医師から1日2リットルの水の摂取を勧められていた。ところが、声帯にすき間があるため、飲む度に激しくむせてしまう。自宅でむせと格闘しながら、水を流し込む日々が続いた。

「手術で声が戻った」と知人から聞き、京都市中京区の一色クリニックを受診したのは8月。院長で京大名誉教授の一色信彦さんは、状態をみて早期の手術を勧めた。一色さんは、発声困難を改善する多くの手術法を考案し、その方法が広がっている。

Bさんは9月下旬、一色さんが兼任教授を務める東京医大病院(東京・新宿)で手術を受けた。「甲状軟骨形成術1型」と呼ばれる治療法で、首の皮膚を4センチほど切開し、喉頭の軟骨に小さな穴を開けて、防水透湿性シート(ゴアテックス)を細い帯状に切って詰め込んでいく。詰め物が声帯の周囲の組織を押して、まひした側の声帯が中央付近に動き、左右のすき間が埋まる。

手術は局所麻酔で行われ、詰め物を出し入れしながら患者に発声してもらい、良い声が出る量に、詰め物を調整する。声帯のすき間が大きかったBさんは、左側の声帯の端の軟骨に糸をかけて引っ張り、声帯を中央に動かす「披裂軟骨内転術」という手術も同時に受けた。

この手術で片側の声帯が常に閉じた状態となるが、呼吸に支障はない。Bさんは「お茶を飲んでも全くせき込みません。地域の仕事にも力が入ります」と声を弾ませる。
(のどに詰め物 声帯動かす)


手術などで反回神経の麻痺を起こしてしまうと、片側の声帯が正中へと寄らず、その結果、ぴったりと声門が閉じずに嗄声が起こります(正常では、声帯がしっかりと閉じて振るえることで発声できます。閉じないと掠れた声になってしまいます)。ほかにも、喀出困難(力強い咳をするのが困難であること)や食道通過障害を合併して誤嚥を起こしたりしてしまいます。

こうした症状を改善するために、麻痺してしまった側の声帯を真ん中へと移動することを目的とするのが声帯内転術と呼ばれるものです。切れてしまった神経を繋いでも、元には戻らないため、麻痺して動かない声帯を真ん中に寄せてあげる必要があるわけです。

具体的には、手術は以下のような説明ができます。
声帯内転術は大きく分けて、
1)声帯内注入法 
2)披裂軟骨内転術 
3)甲状軟骨形成術儀

に分けられます。上記ニュースでは、甲状軟骨形成術儀燭行われています。手順としては上記の通り、首の皮膚を4cmほど切開し、喉頭の軟骨に小さな穴を開けて、防水透湿性シート(ゴアテックス)を細い帯状に切って詰め込んでいきます。

同時に行われた披裂軟骨内転術とは、披裂軟骨突起に糸をかけ、この糸を前内下方(外側輪状披裂筋と甲状披裂筋の収縮時の力の加わる方向)へ牽引して、声帯突起を内転させる方法です。両披裂軟骨声帯突起間の距離が発声中に大きい(目測で1mm程度以上)場合には用いられます。

甲状軟骨形成術儀燭砲いて、以前は、補填物として自家軟骨(肋軟骨、甲状軟骨)や固形シリコンを用いていましたが、侵襲性や医用材料としての認可、加工のし難さなどの問題がありました。

そこで、最近ではゴアテックスを用いた手術が、その価格の低下とともに、元よりゴアテックス自体がもつ性質である、可塑性・弾性性、生体適合性・安全性に優れていることなどのために術例を増やしつつあります。

もちろん手術の前に、最初は保存的治療が考慮されます。主に薬物治療と発声訓練からなっています。薬物療法は、消炎の目的でステロイド剤(プレドニゾロン60mg程度から漸減)、代謝改善の目的でビタミン剤、血行促進剤などが投与されます。発声訓練は、神経麻痺そのものを回復しようとするものではなく、残存する筋活動を賦活して声門の閉鎖力を強め、さらに発声に必要な呼気力を増すことを目的とする訓練です。

それでも改善がみられない場合、上記のような手術を行います。やはり、失われた機能が回復するのは非常に嬉しいものではないでしょうか。お困りの方がいらっしゃったら、一度、耳鼻咽喉科を訪れてみてはいかがでしょうか。

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