厚生労働省が来年度の診療報酬の改定に向けた基本方針案を社会保障審議会の医療部会に示した。方針案では病院で働く医師の負担軽減を緊急課題として挙げ、産科や小児科の診療報酬について加算を求めている。

勤務医の労働は、夜勤明けに再び診察に当たらなければならないなど過酷な面がある。とくに産科医や小児科医は深刻だ。地域的な格差もある。医師不足は国民の健康や命にかかわる。勤務医を優遇して医師不足を解消するのは当然だろう。

しかし、診療報酬は患者の健康保険料や税金、患者負担で賄われる。診療報酬が上がると、当然、国民の負担は増える。それを忘れてはならない。国民皆保険制度のもとでの日本の医療費は診療報酬が多くを占める。医師、とりわけ開業医には大きな関心事だ。患者も認識を深めるべきである。

開業医の年収が病院勤務医の年収の1.8倍にも上ることも考えてほしい。厚生労働省の医療経済実態調査によれば、診療所、つまり開業医の平均年収は2,500万円で、勤務医の1,400万円との差は際だっている。

診療報酬の大幅な引き上げを求めている日本医師会は「開業医を経営責任の問われない勤務医と比較するのは不見識だ」との見解を示すが、説得力には乏しい。

2年に1度改定する診療報酬は、これまでゼロ改定をはさんで2回のマイナス改定が続いた。それにもかかわらず、開業医の収入水準は高い。それは診療報酬の配分自体が偏っているからにほかならない。

勤務医の診療報酬を引き上げるというなら、その前に開業医の診療報酬を下げるべきだろう。そのうえで診療報酬は全体として引き下げる必要がある。そうでなければ、医療費負担が国民にさらに重くのしかかる。

高齢化社会における医療費の増大を懸念し、財政制度等審議会の建議(意見書)も診療報酬引き下げを提言し、開業医優遇の是正を求めている。

基本方針案は、
1)処方箋の様式を変更して先発医薬品よりも安価な後発医薬品のシェアを高める
2)がんや脳卒中の治療を推進する
−も掲げている。医療費は必要なところに使い、それ以外は抑制することも大切である。
(診療報酬改定 開業医優遇の是正が先だ)


厚生労働省は今年の5月に、病院の勤務医に比べて高く設定されている開業医の初診・再診料などを2008年度から引き下げる方針を固めたと発表しています。あわせて開業医の時間外診療や往診などの報酬引き上げを検討していたそうです。中央社会保険医療協議会で引き下げの検討が始められ、来年初めまでに下げ幅を決めるそうです。

こうした動きは、開業医の収益源を見直して夜間診療などへの取り組みを促し、医療現場や医療サービスでの担い手不足解消につなげることなどを目的としています。

しかしながら、開業医の初診・再診料引き下げおよび開業医の時間外診療や往診などの報酬引き上げによって、果たして本当に勤務医の負担は減るのでしょうか。

中核〜大病院では複数の医師が交代で夜間や当直を行うのに比べて、開業医ではほとんど一人で対応しなければならないという事態にあるのではないでしょうか。その負担は、周囲に診療科が少ない地域では、余計にのし掛かってくるのであると思われます。

そこで厚労省は、以下のような案を提示しています。
厚労省は医療構造改革に関する案を公表し、高齢化社会にふさわしい医療を実現するため、「かかりつけ医」を核に、地域の複数の開業医をチーム化し、患者を交代で診察して24時間の在宅医療を実現することを柱としたシステム作りを行うことを目指しているそうです。

地域の在宅医療を充実させることで、大病院などは、症状の軽い一般外来を受け付けず、原則として入院治療や専門的な外来のみ対応する体制を作りたい意向だそうです。

たしかに、こうした開業医と地域の中核病院とが連携することは、疲弊した勤務医の負担を減らす意味では歓迎すべきかもしれません。特に、深刻化する小児科や産婦人科では必要になってくるかも知れません。

しかし一方で、こうした案を実行に移すことができるのか、という実現性の問題が依然として存在しています。そもそも、開業している人たちがすすんで時間外や往診を行っているのならば、ここまで深刻な医療サービス提供の危機にまで陥ることはなかったのではないでしょうか。

診療報酬を時間外診療や往診などで高くし、いままでの診療での報酬を低減したとしても、おそらくそうした開業医の自発性(時間外診療や往診をすすんで行う)を促すほど格差をつけることは現実的に難しく(反対は確実に出てくるでしょうから)、結果として厚労省が思い描いているようなプラン通りになるとは、あまり思えません。単に、診療報酬の水増し請求などを増やすことにもなりかねません。

診療報酬の改訂以前に、こうしたシステムの見直しこそが求められているように思われます。

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