先々週末、脳梗塞を発症し、いまだ予断を許さないオシム監督(66)。脳卒中といえば先月急死した東京五輪水泳代表・木原光知子さん(享年59)はクモ膜下出血だった。

クモ膜下出血は、脳を覆っている軟膜とクモ膜の間を走っている血管の一部が破れる病気。そのほとんどが、枝分かれしている血管の根元の弱い部分がコブのように膨らむ“脳動脈瘤”が、血圧の上昇などで破裂するケース。この脳動脈瘤をもつクモ膜下出血予備軍は人口の2.5%ほどといわれ、脳梗塞などに比べて発症頻度は低いが、ひとたび発症すれば約半数が死に至る。脳卒中の中で「死に近い病気」だ。

それにしても、長年水とともに生きてきた木原さん。選手引退後も水泳教室を開き後進の指導にあたってきたのに、なぜプールで倒れたのか。

「動脈瘤が破裂するのは風船と同じで血圧が急上昇したとき。プールに入っていたのが悪い、というより、やはり過度のストレスが血圧を高める原因になっていたのでは」と話すのは、東京都済生会中央病院・脳卒中センターの淺田英穂医師。

脳卒中は全般的に高血圧が危険因子の筆頭にあげられ、クモ膜下出血の約40%に合併しているといわれる。しかし、ここ最近、高血圧でない30−40代の発症が確実に増えているという。

「このようなタイプの発症で大敵なのが寝不足、過労などによるストレス。ストレスホルモンが増えると血管が収縮して、気づかないうちに血圧を上昇させる」

ゴルフのプレー中に起きる脳卒中や心臓病の75%がパット時という。これも「過度の緊張」というストレスが原因だ。ただでさえ寒さからも血圧が上昇する冬時のスポーツ。脳卒中には十分注意したい。
(疲れ、緊張で血圧上昇…怖いクモ膜下出血)


クモ膜下出血とは、クモ膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。多くは脳動脈瘤の破裂(約80%)によるもので、その他に頭部外傷、脳腫瘍、脳動静脈奇形や脳動脈解離の破裂によるものなどがあります。

芸人の光浦靖子さんが脳動脈瘤の手術を受けていましたが、放置していた場合、破裂してクモ膜下出血を起こしていた可能性もあります。脳動脈瘤は、1.5〜5%の人が持っているといわれています。そのうちの0.5〜3%が破れて症状を引き起こすと言われています。20%の確率で、複数の動脈瘤が発見されます。

こうした脳動脈瘤は、破裂しない限り原則として無症状です(ただし、内頸動脈に生じた脳動脈瘤は、瘤による圧迫で同側の動眼神経麻痺を来たすことがあります)。ただ、破裂すると、突然の激しい頭痛、嘔吐を起こします。

「突然、金属バットで殴られたような」と表現される激しい頭痛が多いそうです。しかし、強い痛みを起こすのは、発症の25%程度と言われている。minor leak(出血が少ない)の場合は、頭痛はそれ程強くない事が多いといわれています。

また頭痛の発症は突然起こるものであるので、患者にいつ頭痛が起こったか聞くと、「朝」などの曖昧なものではなく、「昼食を食べていた頃」などの具体的な時期の回答が得られることも特徴的です。

検査や治療は、以下のようなものを行います。
検査としては、頭部CTやMRI、腰椎穿刺などが行われます。頭部CTスキャンにおいてクモ膜下腔に高吸収領域が見られる。頭部MRIは、血腫が少量である場合、発症後時間が経過した症例においては、CTよりも検出率が高いという報告もあります。MRA(MR血管撮影)も同時に撮影できるという利点もあります。

腰椎穿刺では、血液混入(急性)やキサントクロミー(陳旧性)を肉眼で認めます。ただし、徐脈や眼底乳頭浮腫などの脳圧亢進症状がある場合には、腰椎穿刺は脳ヘルニアを起こす危険があり、おこなわれません。

治療としては、開頭動脈瘤クリッピング術や血管内治療、3H療法とよばれる高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われます。

開頭動脈瘤クリッピング術とは、通常チタン製のクリップを用いて動脈瘤圧搾する事による出血を止める手法です。通常発症から48時間以内に行われなければならないとされています。血管内治療とは、動脈瘤内に金属製のコイルを詰めて閉塞する方法で、コイル塞栓術とも言われます。

3H療法とは、血管攣縮の予防、並びに脳浮腫の状態でも動脈潅流を維持するため、高張輸液の大量投与、時には高カロリー輸液やアルブミンの投与を行います。

最初の出血で1/3が死亡してしまい、さらに血管攣縮や再出血の影響が加わり、4週間以内では約半数が、10年以内では60〜80%が死亡すると言われています。また、救命できても後遺症が残る例が多く、完全に治癒する確率は低いです。やはり発症前に過度なストレスを避け、高血圧などはしっかりと治療することが重要であると思われます。

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