電話相談を実施したのは、患者が主人公の医療の実現を目指すNPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」(大阪市)。ふだんは患者からの電話相談を活動の柱に据えているが、近年、患者の暴言や暴力などに悩む医師や看護師からの相談も増えているため、昨年初めて医療関係者を対象にしたホットラインを開設。3日間で26件の相談が寄せられた。

今年は10月13、14の2日間実施し、16件の相談があった。内訳は保健師を含む看護職が9人、医師が3人、医療事務職が3人、柔道整復師が1人で、山口育子事務局長は「件数は少なかったが、内容はどれも深刻だった」と話す。

例えば、50代の医師は合併症を起こした患者の家族から「もしものことがあれば、お前を殺す」と脅され、ポケットに入れた刃物をちらつかされることもあるという。そうした状況が数カ月にもおよび、命の危険を感じていると訴えた。

また、30代の医療事務職員は、病院長の顔見知りの患者が「5年前に出してもらった水虫の薬を診察なしで出してくれ」などと無理難題を次々とふっかけてくると相談した。

山口さんは「医療は患者と医療者が信頼関係で協働して築いていくものなのに、現状は互いに不信感をもった対立構造。“モンスターペイシェント”というような言葉は、互いの不信を生むだけです」と語る。

さらに、山口さんによると、今回の相談で目立ったのは、患者の暴言、暴力もさることながら、現場に無理解な管理職への不満だという。

50代の精神科医は、自分の担当でもない患者や家族からのクレーム対応を、管理職から「精神科の分野だ」と押しつけられているという。さらに、医師を突き飛ばしたり、看護師につばを吐きかけたりする患者に注意すると、管理職から呼び出しを受けて叱責されるといい、「職員を守ってくれる職場環境にない」と嘆く。

精神科に勤務する40代の看護師も「入院患者からの暴言や暴力が絶えないが、管理職や医師は『あなたの対応が悪いから』『薬を増やそうか』で済ませてしまう」と話し、組織的対応をとらずに個人に責任を転嫁する実態を訴えた。

中には、患者の無理難題と管理職の無理解の間で悩み続け、鬱状態となって病院を辞めたケースもあり、現場と管理職の感覚の乖離が事態の悪化にさらに拍車をかけていることも少なくないという。
(無理難題 医療者だって…つらい 「ホンネと悩み」調査)


モンスターペイシェントとは、そのまま直訳すれば(もともと和製英語ですが)「怪物患者」。医療従事者や医療機関に対して、自己中心的で理不尽な要求・暴言果ては暴力を行う患者やその保護者などを意味するようです。

医療の高度化や、テレビ報道、ネットの情報などの"名医特集や有名病院の特集"で、「病院に行けばすぐに治る」「薬を飲めばすぐに治る」などの(片寄った)イメージが広まり、自分のイメージした治癒にならない場合に、病院や医療従事者に対して強い不満をぶつけたり、理不尽な要求を繰り返す患者が増え始めたといったことや、社会全体のモラル低下などが原因であると考えられます。

具体例としては、以下のようなものがあったそうです。
・治療がうまくいかず、病室に入った女性看護師に理由も告げずに1人ずつほおを平手打ちする(腎臓病の治療がうまくいかず、透析になったことが受け止められなかったそうです)。
・午前中から具合が悪いのに「夜の方がすいているから」と夜間診療の時間帯に子供を連れてくる。
・少しでも待ち時間が長くなると「いつまで待たせるんだ」と医師や看護師をどなりつける。
・薬が不要であることを説明されても「薬を出せ」と譲らない。

こうしたものの他に、最近では医療費の不払いという問題もあります。こうなってくると、もはやモラルだけの問題では済まされず、病院の経営にも大きな負担になってきます。

暴力の問題に関しても、今年の11月には整形外科病院に入院していた板金業の男性(34)が病室で背後から数発の銃撃を受けてしまうという事件がありました。セキュリティといった面からも、もはや警備員の常駐や金属ゲートの導入が必要になってきているのかもしれません。

また病院職員が、全盲の男性患者(63)を公園内に置き去りにしたことがありました。もちろん、こうした行動に出てしまうことは批判されるべきであり、決して許されることではないと思われますが、実はこの患者さんは3年前には退院できる状態になり、病院側は、退院して自宅から通院するか全盲の入所施設に移るよう促したが、男性は「自分がなぜ動かなければならないのか」と退院を拒否していたという背景があります。

さらに、看護師やヘルパーに対し度々暴言を吐いたり、ベッド近くの備品を壊したりするようになったそうです。あまりに大声を出したり暴れたりするため、病院側が他の患者への迷惑を考えて6人部屋に1人で入院させる、という事態になってしまったそうです。男性の前妻が2年前から入院費用を男性の年金で払わなくなり、結果として未収金は、185万円に上っているといいます。

放置してしまったということは別として、病院側も苦慮していた、ということは分かります。悲しいことですが、医療従事者と患者さんのモラルによって成立する関係性に期待する、ということが難しいケースも出てきています。

今後は、こうしたケースではしっかりと法的責任を問うたり、身の危険を感じるようなケースを想定し、警備を行う、といった自衛方法を考える段階にきているのではないでしょうか。

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