以下は、読売新聞の重症招くレジオネラ菌で扱われた内容です。

2002年07月佐伯悦子さん(55)は、友人6人と一緒に、日向市の第3セクターが経営する温泉「お舟出の湯」に出かけた。4日後、40度の熱が出た。佐伯さんは腎臓病のため32歳で生体腎移植を受けていた。免疫抑制剤を服用しているので感染症にかかりやすいが、「せきが出ないので、風邪とは違いそう」と不安になった。

翌日、移植後の経過を診てもらっている鹿児島市内の病院を受診。CT検査で肺炎が原因と分かり、入院した。急に意識を失い、集中治療室に運ばれた。幸い、適切な抗菌薬を投与されて九死に一生を得た。入院2週間目。「お舟出の湯でレジオネラ菌が検出された」というニュースがテレビに流れた。これが肺炎の原因だった。

レジオネラ菌を含む細かな水滴を吸入すると、高熱や呼吸困難を伴う肺炎を発病することがある。この温泉からは、厚生労働省が定める基準の15万倍ものレジオネラ菌が検出された。被害者は約1320人にのぼり、うち7人が亡くなる大惨事となった。

源泉のかけ流しならば、レジオネラ菌の繁殖はほぼ起きない。この温泉は浄化装置をつけた循環温泉で、殺菌の塩素濃度がゼロに近く、配管にいつも湯が残る構造などの問題があり、細菌が異常繁殖した。1年4か月後の03年11月、問題を改善し再開された。

国立感染症研究所生物活性物質部長の宮崎義継さんは「残念ながら、個人でできるレジオネラ菌感染の予防策はない。ただし、完治できる抗菌薬はあるので、高熱などで肺炎が疑われたら、すぐに病院に行ってほしい」と話す。

佐伯さんは結局、半年間入院した。その影響もあるのか、腎臓機能が悪化し、長男が昨年3月、腎臓を提供してくれ、再び移植を受けた。「温泉経営者らは、清潔に管理する体制を徹底してほしい」と訴える。


レジオネラ肺炎は、「在郷軍人病」という変わった別名をもっています。この別名は、以下のような病気の流行に由来します。
1976年にアメリカ合衆国ペンシルベニア州で米国在郷軍人会の大会が開かれた際、参加者と周辺住民221人が原因不明の肺炎にかかり、一般の抗生剤治療にも関わらず34人が死亡しました。

ウイルス、リケッチアなどが原因の候補に挙がりましたが、それらしいものは検出されず、新種のグラム陰性杆菌が患者の肺から多数分離されました。発見された細菌は在郷軍人 (legionnaire) にちなんで Legionella pneumophila(レジオネラ菌)と名づけられました。

レジオネラ菌は、培養方法が他の菌と異なり、かなり特殊です。レジオネラ菌は、グルコースなどの糖をエネルギー源としては用いることが出来ず、システインやセリン、スレオニンなどの特定のアミノ酸を利用しています。

また、pHが6.7–7.0でないと増殖せず、至適温度は36℃、分裂周期は数時間で増殖に時間がかかり、バンコマイシンなどの抗生物質を加え他の菌の生育を抑える…など、人工培地の方法がかなり面倒です。

ですが、環境中では人工培地とは異なり、幅広い環境で生育可能というやっかいな菌です。レジオネラは通性細胞内寄生性であり、これらの場所ではアメーバなどの原生生物など他の生物の細胞内に寄生したり、藻類と共生しており、これによってさまざまな環境での生育が可能になっていると言われています。

レジオネラ菌による病原性は、レジオネラ感染症であるレジオネラ肺炎およびポンティアック熱に大別されます。

レジオネラ肺炎は、上記にもある通り2〜10日の潜伏期間を経た後に、高熱や咳、頭痛、筋肉痛、悪感などの症状が起こります。進行すると呼吸困難を発し、胸の痛み、下痢、意識障害などを併発してしまいます。あなどれないのは、死亡率が15%〜30%と高いことです。とくに、免疫力の低下している人では注意が必要です。

日本では、入浴設備からの感染事例が多いのが特徴的です。1995年頃から販売された家庭用の循環式の『24時間風呂装置』によってレジオネラ感染症が発生して、販売中止になっています。また、上記の通り、各地の温泉や共同入浴施設で感染して死者が出た例もあります。

治療法としては抗菌剤の投与を行います。ただ、細胞内に寄生する菌であるため、細胞内への浸透性の悪い薬剤の効きが弱いという注意点があります。そこで、食細胞内に移行性の高いマクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシン、テトラサイクリン系の抗菌薬を用いる必要があります。

現在では、塩素消毒を行い、また定期的に湯をおとし清掃の徹底、エアロゾル形成を抑制するために泡風呂にしない、といった対策が取られているそうです。温泉に向かわれる方は、少し注意しておいたほうが良いかもしれませんね。

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