岡山県の主婦Bさん(44)の長男(11)は今年1月、痰がからまない空咳と微熱の症状が表れた。「風邪か」と思いながら、近くの病院小児科に連れていくと、胸のエックス線検査などを受け、「マイコプラズマ肺炎」と診断された。

長男は幼稚園の時にもマイコプラズマ肺炎と診断されたことがあり、Bさんは家族に感染しやすいことを知っていた。マスクをしながら看病をしたが、長男が1週間ほどで治ると、せきが出始めた。

同じ病院の内科で感染がわかり、抗菌薬の服用を始めたが、一日中、せきが止まらない。特に早朝と深夜に激しくなり、眠ることができない。胸は圧迫されるように痛む。38度5分ほどの熱も出た。

発病から1週間たっても、病状は治まらない。病院へ行くと、その日に入院。抗菌薬の点滴治療が始まった。それでも病状は悪化。頭痛も表れた。翌日、CT(コンピューター断層撮影)検査を受けると、肺炎は重症化していた。この病院では対応できないと判断され、救急車で川崎医大病院(倉敷市)に運ばれた。

診察した呼吸器内科講師の宮下修行さんは、マイコプラズマに効果がない抗菌薬が使われていたことに気づいた。治った長男と母親で異なる薬が使われた可能性がある。すぐに抗菌薬を替えて治療。Bさんは完治し、5日後に退院した。「初めから適切な治療が受けられたら、こんなに苦しむ必要はなかったのに」と話す。
(薬異なるマイコプラズマ)


マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマ(mycoplasma pneumoniae)の感染によって起こります。肺炎の原因としては肺炎球菌に次いで2番目に多いです。10〜30歳代の若い人たちが発病しやすいといわれています(特に学童期)。最近では、大人が感染して重症化するケースが急増しているので注意が必要です。

症状としては、夜に眠れないほどの頑固な咳が特徴的です。また、咳はdry cough(乾いた咳)と呼ばれる喀痰を伴いません。また、発熱は38.5℃を越えることもあり、頭痛、咽頭痛、倦怠感などのいわゆる感冒(カゼ)様症状もみられます。

マイコプラズマ肺炎は、肺炎球菌に比べ重症化しにくいとされますが、全体の2〜3%で、重い呼吸困難に陥り、集中治療室で呼吸管理をしながら治療する必要があるケースがあるそうです。

診断や治療としては、以下のようなものがあります。
診断としては、上記のような症状をみたり、X線写真では下肺野に病影が多く、片側性ないし両側性でとくに心陰影に接して扇形に広がる、「すりガラス様陰影」を示すことが多いといわれています。病原体の直接証明として分離培養、PCR、蛍光抗体法があり、血清診断としてはペア血清による診断が確実であるとされています。迅速診断としては、IgM測定が可能です。

治療法としては、一般的な肺炎と同様に抗生物質を投与します。ですが、肺炎球菌の治療に使われるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬が効かないという特徴があります。マイコプラズマは細菌ですが、細胞壁がないために効ききません。というのも、ペニシリン系やセフェム系は、細菌の細胞壁合成阻害によって効果を発揮するからです。

「処方された抗生物質を飲んでも良くならない…」といった場合は、再び病院へ行くということが勧められると思われます。

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