平成20年度の診療報酬改定で政府・与党は8日、医師の技術料にあたる診療報酬「本体部分」を小幅引き上げする方向で検討に入った。20年度予算編成では社会保障費を2200億円抑制することが決まっているため、医師不足対策予算と位置づけ、引き上げ分は社会保障費から切り離し、政治判断による特別枠予算とする考えだ。ただ、こうした手法には、与党内にも、「社会保障費の伸び抑制」という政府方針に反するとの批判がある。
 
診療報酬を1%引き上げるには約800億円が必要になるため、引き上げ幅は、財源や前回18年度改定後の物価・賃金動向などを踏まえ、0・7%を軸に調整する。ただ、与党内には、「引き上げ幅はできるだけ抑えた方がいい」という意見も根強く、決着はぎりぎりまで、もつれそうだ。本体部分の引き上げは12年度改定以来。「薬価・材料部分」で約1%の引き下げが固まっているため、診療報酬全体ではマイナス改定となる。
 
社会保障費は概算要求基準(シーリング)で2200億円の抑制が決まっており、財務省は診療報酬改定もこの枠内で対応するよう強く主張してきた。厚労省は、薬価の引き下げや、政府管掌健康保険の国庫補助を健康保険組合などへの肩代わりで2200億円の抑制は達成するものの、これでは本体部分の引き上げ財源は確保できない。
 
そこで浮上したのが、本体部分引き上げを社会保障費と切り離す案。政府は、深刻化している産科や小児科を中心とした医師不足や救急医療、地域医療の疲弊などの解決を重点政策に掲げていることから、本体部分の引き上げを、こうした政策に盛り込む。
 
引き上げの財源としては、過去に高い金利で発行した国債を優先して償還して金利負担分を軽減するなどして捻出する案が有力視されている。
 
政府・与党内には「勤務医の待遇改善には診療報酬の本体部分のアップが必要だ」との意見が根強く、開業医報酬を引き下げて勤務医報酬に回すべきだとの意見もあった。しかし、厚労関係議員や関係団体などが開業医報酬引き下げに強く抵抗していた。
(診療報酬「本体部分」小幅引き上げへ 政府・与党が検討)


厚生労働省は今年の5月に、病院の勤務医に比べて高く設定されている開業医の初診・再診料などを2008年度から引き下げる方針を固めたと発表していました。あわせて開業医の時間外診療や往診などの報酬引き上げを検討していました。

こういった動きは、開業医の収益源を見直して夜間診療などへの取り組みを促し、医療現場や医療サービスでの担い手不足解消につなげることなどを目的としていました。勤務医の労働は、夜勤明けに再び診察に当たらなければならないなど過酷な面があり、とくに産科医や小児科医は深刻であり地域的な格差もあるといったことを受けたものであると思われます。方針案では病院で働く医師の負担軽減を緊急課題として挙げ、産科や小児科の診療報酬について加算を求めていました。

本来は、「開業医の診療報酬を下げ、勤務医の待遇を改善する。それにより開業医の増加を防ぎ、勤務医不足の改善を行う」といったことが目的であったはずであったと思われます。

ところが結局の所、厚労関係議員や関係団体などによる開業医報酬引き下げに対する強い抵抗のため、「開業医の診療報酬は下げず、勤務医の待遇改善は特別枠で」という形になりそうです。

こうした診療報酬による開業医−勤務医の格差是正や医療改革は難しいと思われます。その理由としては、以下のような現実があると思われるからです。
開業医の初診・再診料引き下げおよび開業医の時間外診療や往診などの報酬引き上げによって、果たして本当に勤務医の負担は減るのでしょうか。診療報酬を時間外診療や往診などで高くし、いままでの診療での報酬を低減することで、その差は是正されるのか、疑わしいと思われます。

その理由としては、中核〜大病院では複数の医師が交代で夜間や当直を行うのに比べて、開業医ではほとんど一人で対応しなければなりません。その負担は、周囲に診療科が少ない所では、余計にのし掛かってくるのであると思われます。

「今日は疲れたから…」と断るわけにもいかず、時間が診療を認めたら延々と労働時間が増えるという事態に陥る可能性もあり、それをすすんで行う開業医は果たして出てくるのでしょうか。「時間外診療は無理」ということになり、診療費引き下げで経営が難しくなって病院を畳む、ということになれば余計に医師不足に陥るということも考えられます。

診療報酬を時間外診療や往診などで高くし、いままでの診療での報酬を低減したとしても、おそらくそうした開業医の自発性(時間外診療や往診をすすんで行う)を促すほど格差をつけることは現実的に難しく(反対は確実に出てくるでしょうから)、結果として厚労省が思い描いているようなプラン通りになるとは、あまり思えません。

今後、医療費の削減や医師不足の問題でこうしたことが幾度となく議論されていくと思われます。ですが、医局の人事による派遣機能が失われたことや、都市部に研修を希望する医師が増えたことで、さらなる地域偏在という問題に拍車がかかったことを背景にした問題は、システムの一からの見直しが重要であると思われます。

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