富山県に住む男性(23)は2001年、右の太ももに痛みを感じたことなどがきっかけで、右足の骨に、がんの一種、骨肉腫が見つかった。がんは11cmあり、金沢大病院(金沢市)で抗がん剤治療を受けてから、病巣を切除した。失った骨を再生させるため、「骨移動術」と呼ばれる特殊な治療を受けた。切除した部分の骨はほぼ元通りになり、1年半後にはサッカーなど激しいスポーツを楽しめるまで回復した。

治療法は一般的に、がんを抗がん剤で小さくしてから、手術で切除。その跡に金属などの人工骨を埋め込んだり、他の部位の骨を移植したりする。しかし、体の成長に伴って、人工骨を埋め直す再手術が必要になる。

そこで、人工骨を使わずに済むよう、金沢大病院が着目したのが、骨折時の自然治癒力を生かした骨移動術だ。

骨折すると、骨の元になる細胞や骨の形成を促進する物質が患部に集まり、ゴムのように軟らかい「仮骨」と呼ばれる骨が作られ、その後、本来の硬い骨に置き換わる。この仕組みを利用し、手術で骨を切断して人工的に骨折を起こし、折れた部分を少しずつ引き離すことで、仮骨を作らせて骨を伸ばす治療だ。

具体的には、まず抗がん剤でがんを小さくした後、病巣の周辺の骨を切除。その後、残った骨の一部を切断して細いワイヤを取り付け、患部の周囲に巡らした金属のリングに固定する。そのリングを朝晩0.5mmずつ動かし、残った別の骨の方向に、ワイヤをの骨ごと移動させていく。骨を少しずつ離すことで、間に仮骨がどんどん伸び、周囲に血管や筋肉、神経なども形成される。

欠損部の長さが10センチほどなら、100日程度かけて移動。その後、仮骨が本来の硬い骨に置き換わるのに6〜7か月かかる。ワイヤは皮膚や筋肉を貫いているが、1回の移動距離はごくわずかなので、出血や痛みはほとんどない。ただ、感染症には注意が必要だ。

移動術そのものは、新しい治療法ではない。ロシア人医師が1951年に開発、その医師の名から「イリザロフ法」と呼ばれ、80年代から低身長や骨の変形などの治療に広がった。

もっとも、骨肉腫の場合、抗がん剤の影響で骨の再生能力が低下するほか、再発を防ぐ目的で周囲の筋肉や血管なども広く切除するため、骨移動術で骨を再生させるのは難しいと考えられていた。

だが、金沢大病院整形外科准教授の土屋弘行さんは「抗がん剤の使用量を調節し、切除部分を極力小さくする工夫によって、骨移動術を骨肉腫に適用できるようになった」と話す。金沢大は1990年、骨肉腫患者の手術後にこの治療法を取り入れ、これまでに48人に実施した。

ただ、抗がん剤が効きにくい患者もいるほか、関節の多くの部分を切除するような場合、骨移動術でも再生が難しい。金沢大病院では、骨肉腫でこの治療の対象となる患者は1〜2割にとどまる。

骨肉腫患者への骨移動術は保険がきかないが、先月、ワイヤなどの代金や取り付け費用といった自己負担(計96万円)を除けば、保険が適用される先進医療に指定された。
(骨肉腫 切除した骨再生)


骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍であり、腫瘍細胞が骨組織を作るという特徴をもっています(腫瘍細胞が、直接類骨あるいは幼若な骨を形成する能力をもっています)。

好発年齢は10歳代で、とくに15〜19歳に好発します。膝の周り(約半数例は、大腿骨遠位骨幹端に発生します。次は脛骨近位側に後発します)、肩の骨(上腕骨近位側)にできやすいです。他にも、骨盤や脊椎などに発生することもあります。大きくなっていく腫瘍が、正常な骨を破壊していってしまいます。

症状としては最初、運動している時の痛みがあります。次第に運動していなくても痛みを感じたり、局所の腫れを伴うようになります。痛みは激しいものではなく、スポーツ活動をしている年代なので、筋肉痛として放っておかれることもあり、注意が必要です。

検査としては、X線写真では、腫瘍による骨の破壊と、骨をまだらに作っていることを示す骨硬化像の入り乱れた像がみられます。外骨膜反応として針状骨、コッドマン三角などの所見を示すこともあります。血液検査では、アルカリホスファターゼの高値を示す例が多いです。手術計画を立てる上ではMRIが有用で、骨髄方向への進展状況、骨周囲への進展状況を調べます。

確定するにはは、病理組織診断を行います。腫瘍細胞からの類骨、幼若な骨梁形成がみられ、線維形成型、軟骨形成型、骨形成型、血管拡張型に分類されます。

治療としては確定診断後、ただちに化学療法を開始します。痛みや血液検査、画像検査によって化学療法の効果を判定し、手術を行います。手術では、腫瘍を正常の組織で包むようにして切除します。手術後、傷が治るのを待って化学療法(半年〜1年程度)おこないます。

手術後は、金属などの人工骨を埋め込んだり、他の部位の骨を移植したりします。ですが、体の成長に伴って、人工骨を埋め直す再手術が必要になったりするケースもあります。そこで、上記のような骨折時の自然治癒力を生かした骨移動術が有用ではないか、と考えられます。

原理としては、「身長を伸ばす」という意味合いで有名なイリザロフ法と同様なようです。これは、以下のような方法で行います。
イリザロフ法(イリザロフ創外固定術)を開発した旧ソ連のイリザロフ医師は、シベリアの片田舎に住んでいました。1950年代、骨折治療のために独自に作った固定器を使っていましたが、骨折部を圧縮するためにネジを締めるところを、誤って逆に回し、引き離してしまったそうです。このことから、骨が伸びることが見つかったといいます。

イリザロフ法という骨延長術は、まさに骨を伸ばす「再生医療」だといわれています。低身長の治療や骨の変形矯正、事故などで失われた部分の骨の再生などになくてはならない治療法となっています。

イリザロフ法の原理は、骨折した時にできる「仮骨」を利用したものです。
仮骨とは、まだ軟らかい"骨"になる前段階のようなもの。これが次第に硬くなっていき、骨折の部分が治るわけです。強くくっつけていれば、仮骨が橋渡し役として骨になり、骨折が治ります。

しかし、イリザロフ法では、逆にくっつけた部分を少しずつ引き離していきます。
結果、どんどんと仮骨が伸びていく、ということです。

この方法により、患者さんの生活の質(QOL)が大きく変わってくることと思われます。もちろん、悪性腫瘍の進展の度合いや、化学療法の効き目によっても変わってくるでしょうが、今後も注目を集めそうな治療法と考えられます。

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