「体内にウイルスが侵入しようとした際、『ウイルスが近づいてるぞ!』といった具合に、細胞間に情報を伝達するたんぱく質・サイトカインが、マクロファージ(白血球の一種)などの免疫細胞から生まれるんです。それとセットで、関節の発痛作用や、発熱作用のあるPGE2(プロスタグランジンE2)という物質が分泌されるんですね。そのPGE2が関節痛の主要原因だと考えられます。従って、風邪による関節痛や発熱は、ウイルス自らが体に働きかけて起こる症状ではないんですよ」(永寿堂医院院長の松永貞一先生)

まさか関節痛だけでなく、発熱までもがウイルスの直接作用じゃないとは…驚き!でも免疫細胞は、どうしてわざわざ体に痛みを与えるPGE2を分泌するんだ?

「免疫細胞は一度ウイルスを感知すると、そのウイルスから身体を守るために、サイトカインなどを出しますが、ときに作りすぎることもあるんですよ。サイトカインは産生過多になると、臓器の機能不全を引き起こすなど、逆に体に悪影響を及ぼします。そんな事態にならぬよう、免疫細胞は、サイトカインの産生を抑制する働きを持つPGE2を一緒に分泌するんですね」(同)

風邪のときの関節痛はかなり不快。がしかし、「ウイルスの侵入、許すまじ!」と体内で免疫細胞が一生懸命戦ってくれている合図だと思えば、あの痛みもガマンできる?
(むしろ発熱よりツラい!?なぜ風邪で関節が痛くなるの?)


プロスタグランジン (PG) とは、生理活性物質の一種でありアラキドン酸から生合成されます。エイコサノイド (アラキドン酸を骨格に持つ化合物ないしその誘導体の総称)の一つです。

1936年に初めて、精液中から分離されたことによる。当時は前立腺 (prostate gland) 由来であると考えられたために prostaglandin と名付けられました。体内の各臓器、組織に広範囲に含まれ、ヒトでは精液、子宮内膜、脱落膜、月経血、羊水、分娩中の母体血、甲状腺、副腎髄質、肺などに広く分布します。

具体的には、PGEは、以下のような働きをもっています。
上記のように、PGE2には局所の血流増加作用があり、炎症時に放出されます。ですが、PGE2(F2αもそうですが)は他にも機能があり、臨床的に用いられています。PGE2は臨床では、分娩促進と誘発、子宮頚管軟化、人工妊娠中絶および開腹手術後の腸管麻痺に対して働くと考えられます。

PGE1は、四肢虚血性潰瘍、肺動脈血栓塞栓症、肺高血圧症に対して応用されています。他にも、PGE1は動脈管を開存させる働きがあり、完全大血管転位症などに用いられています(PGE1の点滴により、血中酸素濃度を保つようにします)。

また、アスピリンのようなNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性を阻害し、アラキドン酸からのPGH2合成を阻害し、プロスタグランジンとトロンボキサン合成を抑制します。簡単に言ってしまえば、PGHの血小板凝集作用を抑え、抗血小板薬(脳梗塞予防に処方されていたりします)として用いられています。

また、COX-1が阻害されると、胃潰瘍や消化管出血の原因となります。ですので、アスピリンを飲むと胃が痛くなる、という人がいるわけです。一方、COX-2は炎症時に誘導されるプロスタグランジン合成酵素であり、NSAIDの抗炎症作用はCOX-2阻害に基づくと近年考えられています。

このようにプロスタグランジンは、結構身近に臨床応用しています。風邪を引いたときに関節が痛かったりしたら、「体がウィルスと戦っているんだ」と思えば、少しは痛みも仕方ない、と思うようになれるかも知れませんね。

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