医療機関で緊急時の妊婦の受け入れ態勢の不備が社会問題化していることから、厚生労働省は全国の都道府県に産科救急搬送の調整を行う専門コーディネーターを配置することなどを求める通知を出した。配置促進のため、人件費など事業費用の半額補助を決めており、来年度予算の概算要求に計上する方針。通知は10日付。

厚労省はコーディネーターを各都道府県の拠点病院などに配置してもらい、消防機関などからの要請に応じて搬送先の医療機関との調整役として機能することを目指している。コーディネーターは原則として医師を指定し、各都道府県当たり複数の設置も想定している。夜間や休日に病院の受け付けとして、医療に精通していない職員が適切な対応がとれなかったケースについて、医師が調整役になることで、その課題の解消も期待している。

受け入れ態勢の不備が社会問題化するきっかけになった8月の奈良県での事例では妊婦にかかりつけ医がおらず、救急隊と病院の間で母胎状況の把握や意思疎通が円滑に進まなかったことが原因で、9つの医療機関から受け入れを拒否された。

そのため、通知ではコーディネーター配置以外の対策として、医療機関の救急部門と産科・周産期など他部門との連携を求めた。妊婦の周辺で受け入れ医療機関が見つからない場合、広域連携を組む近隣県の拠点病院に連絡する体制づくりの周知徹底や、ドクターヘリなどを活用した迅速な搬送も要求している。

厚労省は都道府県に現行の受け入れ態勢の点検も指示。来年2月末までに点検の結果を国に報告し、さらに必要な対策も報告するよう求めている。同省医政局指導課は「今回提示した方策を参考にし、受け入れ態勢づくりなどに役立ててほしい」としている。
(妊婦を救え 救急搬送の調整役配置 厚労省通知)


仙台赤十字病院産婦人科の谷川原真吾部長が、県内の中核10病院に対してアンケート調査を行ったところ、飛び込み出産の件数はここ数年であまり変化はなかったものの、出産費用を踏み倒す例や、胎児が低体重で出てきてしまう早産の例が増加していることが分かったそうです。

平成16年は39件中3件だった早産は、19年10月末現在では4倍の12件となったそうです。新生児異常で生まれた例も、16年は7件だったのに対し、19年10月末現在では15件にまで増えたといいます。出産費の踏み倒しも、16年は約25%の9件だが、18年は20件となり半数以上を占めたそうです。

背景としては、分娩を甘く見て、検診を受けずにいる妊婦が増えているのかもしれない、と予想されます。飛び込み出産が後を絶たない背景には、母親の経済苦や危険に対する認識の低さもあるようです。

治療費の不払いは、全国的に大きな問題になっています。日本病院会など、4病院団体が平成16年にまとめた調査では、加盟する5,570病院での未収金総額は年間推定373億円、3年間の累積は853億円にのぼっているそうです。低所得者の増加や、医療制度改革に伴う自己負担の拡大などが背景にあるとみられています。

特に救急と産科が多く、支払い能力があるにもかかわらず、支払いを拒むケースが多いようです。神奈川県産科婦人科医会の集計では、同県内の基幹病院(8施設)での飛び込み出産の件数は、平成15年に20件だったが、18年には44件と倍増、今年は4月までに35件を数えており、年末には100件を超えると推計されています。

こうした経済的な問題以外にも、母子だけではなく病院にとっても以下のようなリスクが高いという指摘があります。
現在、産婦人科の救急患者を受け入れられる病院が減りつつある現実があります。

全国に60カ所余り設置されている総合周産期母子医療センターの診療態勢を厚生労働省研究班が調べたところ、回答施設の約2割が、脳出血など産科以外の妊産婦の急性疾患は「受け入れ不可能」とし、態勢に不安があることが分かっています。

その背景としては、上記の通り「何週目か分からない胎児は出産後の扱いが予測できず、危険な状態になっても対処しづらい。死亡率も高まる。また、妊婦なら必ず受ける感染症の検査も受けていない」…といったことが原因としてあると思われます。母子だけではなく、病院にとってもリスクが高いということが言えると思われます。

大量出血やショック症状など、死に至る可能性のあった妊産婦重症例は、死亡例の70倍以上に上ることが、厚生労働省研究班(主任研究者・中林正雄愛育病院院長)などの全国調査で明らかになっています。

この研究では、333施設から、全出産の約11%に当たる約12万4,600例について回答を得ています。このうち、妊産婦死亡は32人。2リットル以上の大量出血や子宮破裂、多臓器不全、ショック症状など、死に至る可能性のあった重症例は2,325人で、死亡例の約73倍だったそうです。

日本の妊産婦死亡率は世界で極めて低い水準にあると言われていますが、実際には250人に1人の割合で死亡リスクがあることになります。今後、産科救急搬送の調整を行う専門コーディネーターを配置することなどを求める通知を出したことにより、搬送受け入れに関しては改善がなされると思われますが、それ以前に、しっかりと出産前に定期検診を受ける、といった指導が徹底なされるべきであるとおもわれます。

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