パワハラによる被害は後を絶たない。
製薬会社「日研化学」(現・興和創薬、東京都中央区)の静岡営業所に勤務していた男性=当時(35)=が上司の暴言で鬱病となり自殺。男性の妻が労災を認めなかった労働基準監督署の処分取り消しを求めて提訴した訴訟では、今年10月、東京地裁が国に処分の取り消しを命ずる全国初の判決を出し、労災が認められた。国側もそれ以上争わず、判決は確定した。

中部電力の社員だった男性=当時(36)=が鬱病になって自殺したのは、上司の暴言や過労などが原因として、労災認定を求めた妻(43)が、遺族補償年金を不支給とした労働基準監督署の処分の取り消しを求め提訴。名古屋高裁は10月、不支給処分を取り消した1審判決を支持する判決を出した。

パワハラは自殺や過労死にまで結びつく。労働相談を受け付ける東京都産業労働局の担当者は「いじめられていることに無自覚な方も多く『鬱病になった』との相談を聞いてみると、パワハラの被害者だったりする」と説明する。

「仕事ができなくていじめられる人もいれば、できすぎていじめられる人もいる。取締役が『常務にいじめられている』と相談に来たこともある」

パワハラ被害の多くは、長時間労働や残業代の未払いといったケースと違って法に抵触するかどうかの線引きは難しいという。「いじめ」を「指導」と置き換え、パワハラを否定するケースが大半だ。

担当者は「言った言わないの問題になるので、被害者の勤める会社にわれわれが介入しづらいのもパワハラの特徴だ」と話す。被害者の苦しみに理解を示しつつも、相談に対し具体的な“処方箋”を打ち出せない現状もまた、パワハラを助長する土壌となっている。
(パワハラ、助長の土壌…みつからぬ処方箋)


「日研化学」でのパワハラ問題にて、東京地裁がパワーハラスメントによる自殺の労災を初めて認定したことは大きな転換点ではないでしょうか。実際、雇用形態の変化(派遣社員の増加など)やリストラの問題により、サラリーマンの職場環境は深刻化しているといえるのではないでしょうか。

社団法人日本産業カウンセラー協会では、「自殺予防週間」の9月10潤オ16日、日本労働組合総連合会とともに全国で「働く人の電話相談室」を実施したところ、20代から70代まで計430件の相談が寄せられ、産業カウンセラーらが対応しました。

寄せられた悩みは、「職場の問題」が30.7%と最も多く、以下、「メンタル不調・病気」(17.6%)、「家庭の問題」(13.3%)、「生活全般」(10.5%)だったそうです。具体的な内容としては、上司によるパワハラに関する相談が多数あったといいます。こうしたことが職場において、大きな問題となっていると考えられます。

相談内容の中では、「上司や周りから暴言や暴力がひどく対人恐怖症になっている。びくびくして視線も合わせられず周囲の人の目が気になって、体重も減少。夜中にも目が覚めてしまう。今すぐ会社を辞めたいが怖くて言えない」といった男性の悲痛な声が寄せられていたそうです。ここまでくると、もはや指導などの域を超え、訴訟問題にも発展してもおかしくない事例であると思われます。

現在、働く人たちのメンタルヘルスの問題は、以下のようなものがあります。
国内ではここ数年、鬱病などの精神疾患で休職するケースが増えています。独立行政法人「大阪産業保健推進センター」が府内の企業468社について過去5年間の休職者の実態を調査したところ、精神疾患のため休職した労働者は、12年度は337人だったが、16年度には約3.5倍の1190人に急増。従業員300人未満の中小企業(153企業)に限ると、12年度の2人から16年度は3倍の66人に増えていたそうです。

うつ病とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患です。あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在します。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10%程度とされています。

生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、近年の研究では15%程度と報告されています。日本で2002年に行われた1600人の一般人口に対する面接調査によれば、時点有病率2%、生涯有病率6.5%とされています。決して人ごとではないと思われます。

こうした問題は、やはり会社として対策にしっかりと取り組む必要があり、監督責任があると思われます。そのためにも、会社における監督部署や労働基準監督署の管理強化や枠組みなどが必要になると思われます。

現在、企業もメンタルヘルスの問題は取り組みを始めています。30代、40代の働き盛りに増えている鬱病は、重症化すると本人がつらいのはもちろん、企業にとっても大きなデメリットとなるだけに、予防や早期発見が求められます。そのため従業員の「心の健康」対策として「EAP」と呼ばれる支援プログラムを導入する企業が増えています。

EAP(Employee AssistanceProgram)とは、「従業員支援プログラム」と訳されます。
アメリカのEAP協会の定義によると、「会社の生産性に関係する事柄で、従業員に対する仕事上に影響を及ぼす個人的問題の発見、解決を援助するプログラム」のことだそうです。

70年代、アメリカで薬物依存など問題をかかえた従業員の支援対策として始まったそうです。日本では約20年前から、主にメンタル疾患の従業員対策として導入されています。普段から、従業員が抱えている悩みや、鬱をはじめとした様々な心の問題に対して解決を促す役割があるようです。誰しもが罹りうる疾患であるという認識の下、こうした心の健康維持、うつ病対策が期待されます。

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