日本医科大病院であごの修復手術を受けた後に死亡した女性(当時20歳)の両親が、同大に1億円余の賠償を求めた訴訟で東京高裁は19日、訴えを退けた1審・東京地裁判決を支持し両親の控訴を棄却した。

原告側はワイヤが脳に刺さるミスがあったと主張したが、裁判長は「想定しがたく事実と認められない」と述べた。
(あご手術後死亡女性の両親の控訴棄却)


本例は、顎骨骨折の整復手術を受けた後に死亡した20代の女性の両親が、「固定用のワイヤが脳に刺さるミスがあった」などとして日本医科大に1億600万円の損害賠償を求めた訴訟です。女性は1997年12月、埼玉県川越市で橋から浅瀬に身を投げて、顎を骨折。転院先の同病院で手術を受けたが、容体が急変し、2日後に死亡しました。

原告側の主張としては、下顎骨整復手術の際接骨用のキルシュナー鋼線(Kワイヤー)が脳内に突き刺さったことにより、女性が亡くなった、とのことです。助手の医師の指摘によって、その直後に撮られたレントゲン写真や、その2日後、死亡当日の17日朝に撮影されたCT写真が根拠であるとしています。

鑑定を依頼された慶応大学医学部の塩原客員教授は、「Kワイヤーは確かに頭蓋底を貫通し脳内には刺入された。脳内に残った鋼線の痕跡からみて刺入の深さは約65mm。レントゲン撮影時にも先端部分がまだ約8mm脳内に刺さったままになっている。刺入によって右側頭部には、くも膜下出血が起きている」と主張しています。

一方、病院側の説明としては、細菌感染による敗血症およびDIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全といったことが死因であると説明しています。Kワイヤーの脳内刺入に関しては、頭蓋骨表面に少し触れた程度で、脳内には進入していないと反論しています。

この医療事故では、以下のような問題点があると思われます。
現在、費用と時間のかかる裁判ではなく、第三者の仲介で医療事故の紛争解決を目指すという「医療ADR(裁判外紛争処理)」の仕組みを作ろうとする動きがあります。「医療紛争処理機構」が設立されています。

ADRとは直訳すると「代替的紛争解決」の略。交通事故紛争処理センターのように、仲裁、調停、斡旋といった方法で裁判より低額、迅速に紛争を解決させる仕組みです。この機構には、医療事故被害者や医療従事者、法律家らが参加し、患者と医療従事者間の紛争を対話を通じて解決する場の提供や、医療紛争解決に精通した医療メディエーターの育成を図っています。

同研究所長を務める早大大学院法務研究科の和田仁孝教授は、「被害者が求めるのは謝罪や再発防止の約束など医療従事者の誠実な対応。対話の場は医療不信の払拭にも寄与する」と話しています。

上記ニュースでも、両親が医療過誤を疑ったのは、「頭部レントゲン写真や頭部CTを死亡説明時に見せてくれなかった」ということがあったからだそうです。このことから、隠蔽したのではないか、病院ぐるみでだまそうとしている、と考えたそうです。

医療事故が起こった際、必要とされているのは、即時の謝罪や「何が起こったのか」という正確な事実の提示といったことであると思われます。また、今後はADRといった第三者を交えることで、より客観的な話し合いが出来るのではないかと思われます。

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