人口10万人あたりの産科・産婦人科や小児科の医師数が、都道府県によって倍以上の開きがあることが21日、厚生労働省が公表した全国の医師数統計で分かった。「出産難民」「小児科医不足」といった現象が社会問題化する背景に、医師数の深刻な地域格差があることが浮き彫りになった。
 
統計は厚生労働行政の基礎資料を得るために2年に1回まとめられているが、産科・産婦人科や小児科医数を都道府県別にまとめたのは初めて。それによると、15〜49歳の女性10万人あたりの産科・産婦人科医数の全国平均は昨年末現在で38人。もっとも多かったのは鳥取県の60人、最少は滋賀県の26人で格差は2・3倍だった。
 
救急搬送された妊婦が10以上の病院に受け入れを拒否され、死産した問題が8月に起きた奈良県は31人で全国平均を下回っていた。産科医が少ないと1人の医者に妊婦が集中し、その結果、妊婦のたらい回しが起きたという指摘が、統計上でも裏付けられた形となった。
 
15歳未満の子供10万人に対する小児科医数は平均177人。最多が徳島県の295人、最少は岩手県の118人で格差は2・5倍だった。また、国内全体の産科・産婦人科医の数は平成18年末で1万74人。10年前の1万1264人に比べて約1割減少しており、深刻な医師不足ぶりが改めて判明した。小児科医は1万4700人と10年前の1万3781人に比べて増加した。
 
同じ統計からは、全国の医師の総数は27万7927人で、10年前の24万908人に比べて約1割増加。人口10万人あたりの医師数も217人で、10年前の191人より、統計上では増えている。
 
厚労省は「絶対数が不足しているのではなく、医者の配置が偏在していることが小児科医不足が指摘される原因」としている。
(産科医配置の格差は最大2・3倍 都道府県別初統計)


臨床研修で医学生と病院の取り次ぎを行う「医師臨床研修マッチング協議会」が昨年行った調査によると、「将来的に進みたい診療科」(回答数2224人)に、産婦人科を挙げた医学生(一部卒業生を含む)は131人。最も多かった内科(743人)の5分の1以下だそうです。

背景としては、やはりキツイ労働条件に訴訟リスクが高いといったことがあると思われます。昼夜を問わぬ分娩など、産婦人科医の労働条件は過酷だという。激務のうえに高い訴訟率、少ない診療報酬、医学生の産婦人科離れなどの要因が重なり、慢性的な医師不足から脱却できないでいるとのこと。他に、いわゆるメジャー(一般内科・外科)以外にはなかなか興味を持たれない、といったことがあるそうです。

他にも上記ニュースの通り、産科医数においても偏在による地域差もあるようです。そもそも、地方における医師不足の原因も、都市部へ医師が集中したことや、医局離れによって医局の人員を派遣することが立ち行かなくなったこと、臨床研修制度導入により研修医が都市部の病院へ集中しことなどが挙げられています。この構造がある限り、産婦人科医数の中でも地域差が出てくるのは自明の理であると思われます。

こうした問題を受け、政府は以下のような解決案を提案しています。
産科医の不足理由として挙げられる「非常に厳しい勤務環境」「訴訟リスク」を是正するため、まずは報酬面および無過失補償制度導入を目指すと方針を示したようです。

舛添要一厚生労働相は9月、地方を中心に深刻化している産科の医師不足問題について「勤務医の勤務環境が非常に悪い。やはり報酬という面で見てあげないと。それはやりたい」と述べ、勤務医の診療報酬を引き上げる方針を示しています。

また、医師の過失を立証できなくても患者に金銭補償する無過失補償制度に関して、「まず脳性まひのケースについて具体的にスタートさせる」と強調。産科医減の原因の一つとして医療事故による訴訟リスク問題があることを踏まえ、制度導入に向け具体策作りを進めていることを明らかにしています。

根本的に医師不足の問題に対しては、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めていました。

地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定していたとのこと。現在の自治医科大学のような制度で、授業料などが免除される代わりに、"義務年限"というものが存在し、その間は入試を受けた都道府県の僻地医療に従事しなくてはならないということになっているようです。

さらに、国レベルで「医師バンク」を設置し、不足している地域に医師を臨時に派遣することも考えられています。大都市圏の臨床研修病院の定員を減らし、若手医師を地方に誘導することが柱の制度作りも協議されているようです。

こうした提案はあるものの、今後の見通しは、まだ不明なままです。その間にも、医師数の偏在、果ては提供する医療サービスの格差も進んでいくのではないかと考えられます。まずは、報酬面および無過失補償制度導入により産科医の絶対数を増やすと努力を行うとともに、早急な制度改革の見通しを立てることが必要であると思われます。

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