「危険」とみられていたタミフルに、厚労省の研究班の調査で、従来の見方と異なるデータが出た。今シーズンは流行がは早いインフルエンザだが、医療現場では、タミフル解禁を求める声と、「それでも怖い」と敬遠する声とが錯綜する。一方で、薬と異常行動の因果関係について、厚労省は慎重姿勢を崩していない。

横浜市の上大岡内科・呼吸器科クリニックの鈴木俊介医師は「タミフルの服用で早期にインフルエンザを抑えることで、ウイルスが増殖して脳に影響を与えるリスクが減る」と、タミフルの効用を語る。

今シーズン、経口式のタミフルに代わって吸引式のリレンザが服用されているが、鈴木医師によると、10歳以下の子供たちにはリレンザの吸引は難しく、親たちも気が気でないという。

一方、飛び降りなどの重度の異常行動との関係が指摘されるタミフルには抵抗感も強い。長女(11)がインフルエンザに感染した埼玉県川口市に住む母親(37)は「医者に『タミフルはいらない』と自分から言った。因果関係がわかっていなくても、万が一を考えれば使いたくない」と話す。主婦仲間の間でも「タミフルの服用は怖い」と話題になっているという。

研究班の専門家も「脳は未知の領域。タミフルの影響を短期間で白黒付けるのは難しい」と話す。「厚労省は将来の訴訟リスクを考え、現在の処方禁止を撤回しないはず」と指摘する医療関係者も多い。因果関係を不明にしたまま、10代患者への原則使用禁止をもとめる厚労省の曖昧な姿勢は、今冬も維持されそうで、医療現場や家庭での不満や不安は当面続きそうだ。
(タミフル異常行動 制限維持、不安消えず)


厚生労働省は2007年3月20日、インフルエンザ治療薬「タミフル」の輸入販売元の中外製薬に対し「10代の患者には原則として使用を差し控えること」と添付文書の警告欄を改訂し、緊急安全性情報を医療機関に配布するよう指示しています。

この背景としては、まず2005年11月、タミフルの副作用が疑われる事例として、服用していた2人の患者が異常行動の結果事故死(転落死など)したことが報道されて問題となり、さらに今年2月・3月にいずれも12歳の男児が自宅2階から飛び降りて骨折する異常行動があったことが新たに判明し、10代の異常行動は2月以降計4件となり「因果関係は明白ではないものの、注意喚起を呼び掛ける必要がある」と判断、緊急指示となりました。

もちろん、10代未満も異常行動をおこすことがあります(タミフルが原因でなく、インフルエンザ脳症・脳炎とも原因は考えられますが)。ですが、10代未満ではインフルエンザでの死亡率が高く、静止も容易であるのに対し、10代では体格などによるが、異常行動を静止することが難しいことがあるため、原則使用は10代では禁止すべきではないか、と考えられているわけです。

「子供に使用するのは怖い」という親御さんがいらっしゃるのもわかります。ですが、10歳未満の患者はインフルエンザで肺炎を起こす可能性もあり、必要な患者には処方することも大事であると考えられます。

そこで、リレンザを代わりに使ってはどうか、ということも言われています。リレンザとは、以下のようなものを指します。
リレンザはタミフル同様、ノイラミニダーゼ と呼ばれる酵素によりウイルスが感染細胞表面から遊離することを阻害し、他の細胞への感染・増殖を抑制する薬です(そのため、ノイラミニダーゼを持たないC型インフルエンザウイルスには無効)。大きな違いとしては、リレンザは吸入薬で、タミフルは経口投与する薬です。

そのため、経口投与が受け入れられやすいという背景からノイラミニダーゼ阻害薬におけるシェアはタミフルが大きく占めるようになりました。ですが最近、タミフルの異常行動事例による使用制限で注目される薬となりました。

しかしながら、リレンザでも異常行動事例が確認され始めています。今後、タミフルに代わってリレンザの使用頻度が増加した場合、タミフルと同様の異常行動事例の報告が増加していく可能性があります。そうなると、やはりインフルエンザ脳症・脳炎との鑑別が問題となり、タミフル同様、水掛け論になってしまうことも考えられます。

結局の所、確かなことは言えず、やはり10代はリレンザを処方、10歳未満はタミフルといった処方をする病院が多くなるのではないでしょうか。

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