死亡後に腎臓を提供する「献腎移植」のうち、心臓停止前に人工呼吸器を止めて延命治療を中止した提供者(ドナー)からの移植が、平成7−15年の約9年間に280件あったことが、日本臓器移植ネットワーク(東京)の集計で30日、分かった。同期間の心停止後腎移植全体の約22%を占める。
 
終末期医療の現場で行われてきた呼吸器中止の実情の一端を示すデータとして注目される。個々のケースでどのような延命中止の判断があったかは明らかにされておらず、専門家は「移植のために延命中止を急ぐことがないか、妥当性の検証が必要」と指摘している。
 
移植にかかわったコーディネーターが1件ごとにコンピューターに登録した症例情報を基に、移植ネット統計解析委員会が16年に集計。それによると、7年4月から15年12月にかけ、心停止後の腎移植は全国で1279件あった。
 
呼吸器中止の280件を含め、移植ネットの小中節子理事は「すべての移植例が、内部の評価委員会で『手続きに問題はない』と判断されている」と説明。その上で、原則論として「呼吸器を中止するかどうかは終末期医療の問題で、移植ネットがかかわるべきではないと考える」としている。
 
移植に詳しい医療関係者は「終末期に呼吸器をつけたまま長い期間が経過すると、デメリットとして臓器が弱り移植できなくなる場合もある。提供意思があって呼吸器を中止する際、常識的には脳死の診断をしていると考えられるが、どこまで厳格な基準で診断しているかは施設によってばらつきもあるのでないか」と指摘している。
 
移植ネットは集計結果を基に、呼吸器中止や摘出準備として行われる心停止前の管挿入などの要因と腎臓の生着率の関係を分析、呼吸器中止の有無は生着率に大きな影響はないとの結果だった。
(22%が延命中止ドナー 腎移植、9年間に280件)


昨年、富山県射水市の病院で発覚した人工呼吸器取り外し問題を契機に、延命中止のルール作りが話題になりました。最近では、京都府長岡京市の医師が、全身の筋肉が徐々に動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した義母に十分な説明をせずに、人工呼吸器による延命措置を行わないことを決め、この女性が昨年死亡したとの報告を、専門誌に発表していたことがトピックスになりました。

その結果、回復の見込みがなくなった救急患者に対する延命治療中止の指針を検討していた日本救急医学会は今年の2月、都内で理事会と評議員会を開き、指針案を提出しました。

その当の回復不可能な"終末期"の定義としては、以下の4つが示されています。
1.脳死
2.生命が人工的装置に依存し、生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆
3.他に治療方法がなく、現在の治療を継続しても数日以内の死亡が予想される
4.悪性疾患や回復不可能な病気の末期であることが判明した場合

また、終末期と判断した場合に延命治療を継続するか中止するかの判断は、家族が同意している場合は、患者本人の生前の意思に従うとしています。

ですが、家族の意思が明らかでなかったり判断できない場合は、家族や関係者の納得を得て、医療チームが治療中止の是非や時期を判断。患者本人の意思が不明で、家族とも接触できない場合は、医療チームで慎重に判断する、としています。

延命治療中止の方法としては、
1.家族立ち会いのもとで、人工呼吸器、ペースメーカー、人工心肺などを中止
2.人工透析や血液浄化などの治療を行わない
3.呼吸管理・循環管理の方法の変更
4.水分や栄養の補給の中止

 の4方法が示されています。

また、8月には患者の意思確認などの条件を満たせば「延命治療の中止を考慮してよい」とする「暫定指針」を日本医科大(東京都文京区)が作成しており、付属4病院で運用を始められています。

指針は「終末期」を「病気やけがで2週間以内から長くても1カ月以内に死が訪れることが必至の状態」、または「医学的に不治と判断され、生命維持処置が死の瞬間を延期することだけに役立っている状態」と定義。

その上で、
1)終末期の判断は必ずチームで行い、主治医1人で判断しない。
2)延命治療を希望しない患者の意思を本人の書面や家族の話などで確認
3)患者の意思に対する家族の同意

この3条件がそろえば、個々の中止内容などを家族と話し合いながら検討するそうです。

終末期医療の一端をのぞかせる実情としては、以下のような学会調査が示されています。
集中治療室(ICU)の医師の90%が、過去1年間に、回復の見込みがない患者の延命措置について、中止も含め積極的に行わなかった経験のあることが、日本集中治療医学会の内部調査で明らかになっています。

対象は、大規模な医療機関でICU責任者などを務め、学会認定医の研修に携わる指導的な医師75人。うち60人から回答を得た結果、「延命措置を控えたことがある」と答えた医師は54人。内容を尋ねると、血圧が急に低下しても昇圧剤を使わないといった「現状維持」が39%。投薬量などを減らす「減量治療」が28%、「すべて中止」は4%だったそうです。

措置を控えるのは「家族の希望」(45%)よりも、「医師の治療上の判断」(55%)に基づく例が多く、最終的には「担当医グループ」(45%)や、相談を受けた「病棟医長や所属長」(28%)など、責任者の判断や医療グループ内での合議で決める場合が大半。しかし、少数ながら単独で判断していた医師もいたそうです。

こうした現状から、延命中止に関して事件となることも可能性は低くないのではないか、と考えられます。特にご家族の方も、その場においては「延命中止に同意します」と言っていても、司法や警察の介入などがあると「同意していない」と翻す可能性もあります。

「延命中止に同意」したことを、後になって考えると罪悪感を感じたり、追求されることを避けたいと思って、その場の「同意」を否定するご家族の気持ちも分かります。ですが、その結果として医師がその責任を問われることもあります。

やはり、延命中止に関してはガイドライン策定が必要になると思われます。難しい問題ではありますが、だからこそ"事件"となった記憶を薄れさせず、しっかりとした論議をして風化させないことが望まれます。

【関連記事】
「延命治療中止」が今後どう変わるの?

呼吸器外し:「悪質性低い」医師送検に和歌山県警が意見書