大阪府東大阪市で2日夜、交通事故に遭った男性が、府内の5つの救命救急センターで「満床」や「治療中」などを理由に搬送受け入れを断られていたことが3日、わかった。男性は事故から約1時間後に、現場から約15キロ離れた同府吹田市の千里救命救急センターに運ばれたが同日午前、死亡した。男性が断られた5施設は、いずれも生命の危険に瀕した人が運ばれる3次救急医療機関で、最終的な受け入れ先にまで断られた格好だ。
 
河内署によると、死亡したのは大東市灰塚のトラック運転手、西村正夫さん(49)。搬送した大東市消防本部によると、救急隊が午後10時33分に現場に到着。西村さんは胸を強く打ち、意識はあるものの、強いショック状態だった。同隊は生死にかかわる危険な状態と判断し、現場から近い病院に受け入れを要請したが、5施設に「治療中」や「救急ベッドが満床」などの理由で断られたという。
 
約30分後、吹田市の救命救急センターで受け入れが決まり、発生から約1時間後の午後11時35分に運び込んだが、翌3日午前1時40分ごろ、死亡した。搬送が遅れたことと死亡との因果関係ははっきりしないという。
 
事故は2日午後10時20分ごろ、東大阪市東鴻池町の交差点で、西村さん運転のバイクが、右折しようとした大阪市淀川区の会社員男性(28)の軽自動車と衝突した。
 
現場から最も近い東大阪市の府立中河内救命救急センターは当時、救急専門医を含む3人の医師が当直勤務していたが、2人の重症患者を治療中で、「これ以上の対応は無理」と断った。当時は年末年始の特別なシフトではなく、通常の当直勤務だったという。
 
救急医療機関は患者の病状に応じて1次、2次、3次に分けられ、生命の危険があり高度な医療が必要な場合は3次とされる。府内に11機関あり、救急隊が現場で患者の病状を判断し、適切な医療機関に搬送する。
(救急5カ所たらい回し 事故の男性死亡)


大阪府富田林市では、2007年12月25日未明、体調不良を訴えて救急搬送された女性(89)が、近隣の30もの病院に相次いで受け入れを断られ、約2時間後に市外の病院に運ばれたが死亡していた件がありました。各病院は当直医が手術中や専門外などを理由に断ったとい、上記ニュースと同様のケースであると思われます。救急患者の受け付け拒否は奈良県や兵庫県などで相次いでおり、改めて救急搬送の受け入れ体制の不備が浮き彫りになったと思われます。

2007年の11月に、福島市で乗用車にはねられた女性の搬送先の病院が約1時間決まらず、約6時間後に死亡したことを受けて、福島市や消防、市内の病院などでつくる「福島市救急医療病院群輪番制運営協議会」は臨時の総会を開き、消防から救急患者の受け入れを打診された病院は、原則として拒否しないことを決定したそうです。受け入れた後の対応については、満床などのためそのまま治療することが困難な場合、病院間で調整し、より高度な医療ができる病院に移送すること、としています。

ただ、こうした原則を改めて確認することに、「そんなの病院としては当然のことだろ?」と思われるかも知れませんが、病院側にも苦しい胸の内があります。福島市の病院担当者は、「医師も治療設備も物理的な限界がある。満足な治療ができないと分かっているのに受け入れて、本当に患者のためになるのか。仮に死亡させた場合、誰がどう責任を取ればいいのか」と危惧しています。

この言葉の通り、処理能力やキャパシティ限界のところで頑張っているところに、さらなる負担がのし掛かってくる可能性があるわけです。そして、万が一のことがあれば、当然のことながらその責任を問われてしまいます。もちろん、いかような場面でも、医療サービスの提供者として最善を尽くすことは当然のことかもしれませんが、「どうか、よその病院にお願いできないものか…」と思ってしまうのもまた、事実なのではないでしょうか。

では、どうして近年、こうした問題が起こってきてしまったのでしょうか。その背景としては、以下のようなものがあると思われます。
問題の背景として、厚労省は「重症とはいえない患者が救急医療で大きな病院にかかるケースが増え、勤務医の負担となっている」と分析しています。そうした患者さんに対応するため、本当に重篤な患者さんを看ることができない、という事態に陥ってしまったのではないでしょうか。

ですが、さらに言えば「休日や夜間に近くの開業医が閉まっていて受診できず、やむを得ずに大病院に駆け込んでいる」という要因もあります。そこで、大病院への集中を是正するには、開業医の初期救急医療体制を充実させる必要があると判断し、開業医に夜間の診療時間を延長してもらうため、時間外診療の報酬を手厚くする方針も考えられていました。初・再診料は下げ、夜間や休日に診療を行わなければ、高収入が得られない体系に改めようとしたわけです。

ところが、結局の所、厚労関係議員や関係団体などによる開業医報酬引き下げに対する強い抵抗のため、「開業医の診療報酬は下げず、勤務医の待遇改善は特別枠で」という形になるようです。開業医−勤務医の格差是正や医療改革という目標とは、ほど遠い形になっています。

こうなってきてしまうと、医療体系そのものを見直す必要が出てきてしまいます。その改革のためには、多くの時間が必要となってしまうでしょう。ですが、その前に福島市で進められているような、休日や夜間でも入院を必要とする救急患者らへの治療を確保する術を模索するべきであると思われます。現在、福島市内の第2次救急医療機関である10病院で病院群を作り、持ち回りで当直当番を決める「救急医療病院群輪番制」といったものが作られています。

さらに、第2次救急医療機関だけでは限界がくる可能性があり、第3次機関(最先端、高度な技術を提供する特殊な医療を行う医療圏)である県立医大病院に来年1月、救急救命センターを設置し、集中治療室などを充実させることが決定しているそうです。

大阪のケースは、決して他人事として看過することはできないと思われます。恐らく、近い将来にはこうしたケースがより多くの頻度で起こってくると思われます。それを避ける意味でも、しっかりとしたシステム作りが必要であると思います。

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