昨年8月に起きた搬送妊婦の死産問題で、救急医療体制の脆弱さを露呈した奈良県の荒井正吾知事は、4日の定例記者会見で、県内各地域の医療に関する課題をリストアップし、自治体や医療関係者らが具体策を検討する「奈良県地域医療対策協議会」(仮称)を平成19年度中に立ち上げる方針を明らかにした。今年秋をめどに報告書にまとめ、21年度当初予算に反映させるとしている。

協議会は各市町村の責任者や医師、学識経験者らで構成。救急医療体制のほか、公立病院改革、小児救急医療などについて部会を設け、各地域にとって具体的にどのような体制が必要なのかを検討していくという。

荒井知事は「医療、介護など終末期に至るまでのサービスがきちんと提供できているかをチェックし、それをもとにどうするか考えたい。(山間部の)県南部など、各地域の医療状況について調査、分析したい」と話した。
(奈良が地域医療協議会設置へ 搬送妊婦死産問題で)


8月の問題というのは、女性が25日午前2時45分頃、出血を伴う腹痛を訴え119番通報。産婦人科を探したが、奈良県では受け入れ先が見つからず、12ヶ所目に打診した高槻市の病院へ搬送し、午前5時50分頃に病院へ着いたが、流産が確認されたという事例です。

ちなみに、流産とは、妊娠の継続が停止することを指し、日本産科婦人科学会では「妊娠22週未満の妊娠中絶を流産」と定義し、22週以降の場合では、「死産」と定義されています。なお、妊娠12週未満の流産を「早期流産」、妊娠12週以降22週未満の流産を「後期流産」といいます。このケース得では、女性は妊娠3カ月とのことで、明らかに22週未満ですので、「流産」と考えられます。

現在、産婦人科の救急患者を受け入れられる病院が減りつつあるようです。すでに、リスクが高い妊娠・出産を引き受ける中核施設として全国に60カ所余り設置されている総合周産期母子医療センターの診療態勢を厚生労働省研究班が調べたところ、回答施設の約2割が、脳出血など産科以外の妊産婦の急性疾患は「受け入れ不可能」とし、態勢に不安があることが分かっています。

こうした問題を受け、奈良県の荒井正吾知事は2007年9月6日、定例会見で妊婦死産問題に触れ、ハイリスクの妊婦らに24時間態勢で対応するため、2008年5月に開設予定の総合周産期母子医療センターを立ち上げることを予定しています。ただ、この件に関しても、以下のような問題が存在していると思われます。
奈良県は、大淀病院は今年4月から、産科を休診。同県の中南部地域では、五條市の県立五條病院が昨年4月に産科を閉鎖し、大和高田市の市立病院でも同年6月、妊婦の受け入れを周辺5市町に限定するなど、現状では大規模病院の産科がゼロという異常事態になっているそうです。

そもそも、上記病院が次々と産科を閉鎖せざるを得なかった理由として、「産科医がいない」ということが挙げられると思われます。それは、「総合周産期母子医療センター」を稼働してもクリアすべき問題として、残り続けるのではないでしょうか。

十分な人手を確保できずに、(言い方は悪いですが)自転車操業を始めてしまうと、またスタッフが次々にいなくなってしまう、ということも考えられます。そうなってしまっては、先の状態の二の舞になってしまうのではないか、と考えられます。

こうした産婦人科での受け入れが難しい状態にあることも問題とされていますが、救急搬送の患者を受け入れることも難しくなりつつあるようです。今年に入り、大阪府東大阪市で2日夜、交通事故に遭った男性が、府内の5つの救命救急センターで「満床」や「治療中」などを理由に搬送受け入れを断られていたことが分かっています。現場から約15Km離れた同府吹田市の千里救命救急センターに運ばれましたが、同日午前、亡くなっています。

さらに、大阪府富田林市では、2007年12月25日未明、体調不良を訴えて救急搬送された女性(89)が、近隣の30もの病院に相次いで受け入れを断られ、約2時間後に市外の病院に運ばれたが死亡していた件がありました。

こうした問題をはっきりと認識し、現場の声を反映させるためにも、地域医療協議会設置の意義はあるのではないかと思われます。ただ、単に外面的な体裁を繕うためだけの協議会にならないことが懸念されます。

【関連記事】
再び産科医療の遅れを指摘された奈良県

医師不足で出産受け付け中断−近江八幡市医療センター