「テレビに出ている本人が楽しくないのでは、見ている人たちは、楽しめないだろう。これ以上、テレビに出続けるのは、視聴者に失礼にあたらないか」2000年夏、歌手の円広志さん(54)は悩んでいた。

関西を中心に、レギュラー番組は5、6本を数えた。仕事の後は、気の置けない仲間と自宅で明け方まで飲み、そのまま早朝の番組に出演することもしばしばだった。「周囲から『いつ寝ているの』と驚かれるほど、仕事もプライベートも休みなく過ごしてきました。疲れもなく、自分は健康そのもの、と思ってきたのです」

異変が起きたのは、99年の春先だった。
夕方、一人で車を運転し帰宅する途中、通い慣れた道で渋滞に巻き込まれた。車を止めたのに、車窓の景色が流れているような錯覚に襲われた。「前の車に追突する」と思い、慌ててブレーキを強く踏んだが、景色は止まらない。動悸が激しく、息苦しくなった。初めてのことに戸惑った。

その数日後、テレビの生放送の冒頭で、再びドキドキが起きた。いつもの通り、何人かのタレントと並んで立っていただけなのに、動悸やめまいがして、ふらついた。「ああ、このまま倒れて、心臓が止まって死んでしまうのではないか」。恐怖や不安でいっぱいになり、体が崩れ落ちそうになるのを必死にこらえた。そんな状態が10分間ほど続いた。その後も、運転中やテレビの収録中など同じような状況で、発作が起きた。

収録中は、じっと立っていると倒れそうになるので、自分にカメラが向いていない時は、体を揺さぶるようにした。不安が最高潮に達し、思わずいすに座り込んだこともある。

「いつ発作が起きるか不安でたまらず、カメラが向いた時にだけ笑顔を作る。常に『あと何分で終わる』と自分に言い聞かせていました。特に、いつ終わるかわからない収録番組はつらかった」

車の運転も怖かった。トンネルや高速道路では「発作が起きてもすぐに出口にたどり着けない、と考えると不安でたまらない」。趣味で乗っていたオープンカーなど2台を売却した。そんな状態で1年が過ぎた。何とかテレビ出演はこなしていたが、恐怖や不安がぬぐえず、番組に集中できない。

発作が起きても、実際に倒れたことはなく、周囲は気づいていないようだった。だが、「こんな状況でテレビに出る資格があるのか」と、周りの人から責められているような気がした。

「もう許してほしい。仕事をやめさせてくれ」
ある日、マネジャーに涙ながらに訴えた。テレビ出演を休み、眼科や内科、脳神経外科などを回った。様々な検査をしても、異常は見つからない。

最後に受診した耳鼻咽喉科で、ようやく「パニック障害」と診断された。薬などで治療すれば「治る病気」だと言われた。円さんは「自分を悩ませてきた不安や恐怖は、気のせいじゃない。ちゃんとした病気だ、とわかってうれしかった」と振り返る。
(パニック障害(上)歌手 円 広志さん)


俳優の岡田義徳さんや長嶋一茂さんも、パニック障害を抱えていたと告白していました。パニック障害とは、パニック障害は突然の強い不安感(死ぬのではないか、気が狂ってしまうのではないかという恐怖)と自律神経症状(動悸、頻脈、呼吸困難、発汗、息切れ、胸腹部不快など)によるパニック発作を繰り返すことを主症状とする疾患です。

一般人口における生涯有病率は,諸外国の調査では1.1〜3.5%、岩田昇らによる地域調査では0.9%であり、患者の約7割は発作で救急外来を受診しています。100人に1人〜3人程度であり、決して稀な病気ではないといえるでしょう。男女ともに起きますが、女性の罹患率が2倍程度高いといわれます。好発年齢は、20〜40歳であるとのことです。

1回の発作は、通常数分から30分、長くとも1時間以内に自然に消失します。パニック発作はしばしば救急外来での緊急処置の対象となりますが、診察中に次第に治まってくる、ということも多いようです。本人は非常に辛い状態にありますが、生命的危険のない発作であり、そのように説得することが重要です。

たしかに、命の危険などは少ないとはいえ、パニック発作の問題点として、発作が反復するうちに予期不安(発作が起こるのではないか、と不安になる)が形成され、発作が頻発すると広場恐怖(助けが容易に得られない場所にいることへの恐怖であり、1人で戸外や混雑の中にいたりすると生じやすい)と呼ばれる状態になり、外出もできなくなってしまうこともあります。

パニック発作の診断基準(ICD-10精神および行動の障害研究用診断基準)や、治療方針としては、以下のようなものがあります。
〃磴靴ざ寡檗ι坩造量昔討剖菠未気譴襯┘團宗璽
突発的な開始
数分のうちに最強となり、少なくとも数分間は持続
ぜ,両なくとも4項が存在し、そのうち1項目は(a)から(d)のいずれかであること。
・自律神経性の刺激による症状
(a)動悸,または強く脈打つ,あるいは脈が速くなる
(b)発汗
(c)振戦または震え
(d)口渇(薬物や脱水によらないこと)
・胸部、腹部に関する症状
(e)呼吸困難感
(f)窒息感
(g)胸部の疼痛や不快感
(h)嘔気や腹部の苦悶(例:胃をかき回される感じ)
・精神状態に関する症状
(i)めまい感,フラフラする、気が遠くなる、頭がくらくらする感じ
(j)物事に現実味がない感じ(現実感喪失)、あるいは自分自身が遠く離れて「現実にここにいる感じがしない」(離人症)
(k)自制できなくなる、「気が狂いそうだ」、あるいは気を失うという恐れ
(l)死ぬのではないかという恐怖感
・全身的な症状
(m)紅潮または寒気
(n)しびれ感またはチクチクする痛みの感覚

また、チェックするポイントとしては、「器質性(身体疾患や薬物の直接的な原因となる)不安状態」と特異的な「パニック障害」を区別することです。パニック障害では、特別な状況にも環境的背景にも限定されず、「予期されずに」発現する特発性パニック発作を反復する障害です。

てんかんなどの神経系発作性疾患、甲状腺機能亢進症や狭心症などが背景としてないか、しっかりとチェックする必要があります。

治療としては、まず疾患教育を十分に行い、発作そのものに生命の危険はないことを保証する(しっかりと納得してもらう)ことが重要です。発作が出現する時のために、抗不安薬(ワイパックスなど)を持参してもらうことも、安心につながるようです。

他には、薬物療法と精神療法があり、様々な治療が有効性を認められています。薬物療法では、発作の抑制を目的に抗うつ薬(SSRIや三環系抗うつ薬・スルピリド)が用いられ、不安感の軽減を目的にベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられます。

これらの薬物には明確な有効性があり、特に適切な患者教育と指導と併用した場合の有効性は極めて高いといわれています。また最近は、新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が語られることが多いです。

こうした疾患をもっている場合も、治療を続け、社会生活をしっかりと営むこともできます。もし悩んでいらっしゃるようでしたら、一度、精神科の受診をなさることをお勧めいたします。

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