子供を持てない夫婦が妻以外の女性に出産してもらう、代理出産の是非を検討していた日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」の作業部会が、代理出産を新法で禁止すべきだとする報告書素案をまとめたことが16日分かった。

日本産科婦人科学会による現行の自主規制の限界を指摘。処罰の対象は営利目的での実施に限定するとした。すべての代理出産を罰則付きで禁止すべきだとした平成15年の厚生労働省部会の結論をやや緩和する内容で、18日の検討委会合に示される。

素案は夫婦の精子と卵子を用いた、いわゆる「借り腹」による代理出産について検討。代理母となる女性が被る身体的・精神的負担や、生まれてくる子供の心に与える影響などの問題があり、代理母が危険を承知で引き受けたとしても「自己決定が十分といえるか疑問がある」とした。
(代理出産、新法で禁止を 処罰は営利目的限定)


妻の生殖器に異常があるため妊娠や出産ができず(先天的に子宮を欠損している女性や子宮摘出を受けた場合)、第三者の女性と代理母契約を結び、夫の精子で人工授精し子供を生んでもらうことを代理出産といいます。人工授精や体外受精といった生殖補助技術が発達したため、夫婦以外の第三者の精子、卵子、子宮を使い子供をもつことが可能となってきたため、こうした医療についての議論が生じてきました。

代理母出産については、生殖補助医療の進展を受けて日本産科婦人科学会が1982年10月に決定した「会告」により、自主規制が行われているため、国内では原則として実施されていません。また、代理母契約そのものが民法90条の公序良俗違反かどうかの決着はついていません。

国内での動向としては、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が、国内初の代理母出産を実施し、2001年5月にこれを公表しています。また、向井亜紀さんが国内の自主規制を避ける形で海外での代理母出産を依頼することを大々的に公表し、これを実行したことにより、社会的な注目を集めることとなりました。

結果、厚生労働省の審議会が2003年にとりまとめた『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書』および、日本産科婦人科学会の会告によって、規制の方向に乗り出しています。さらに、向井さん夫婦の代理出産でもうけた双子の3歳男児について、最高裁で出生届の不受理が確定しており、国としての対応は否定的であると言わざるをえないでしょう。

たしかに、法律的には、生物学的母、代理母、育ての母の3人の母の法的地位をめぐって複雑です。単に技術的な問題に留まらず、「親とは何か」という親や子供を含めた定義の問題にまで発展してしまっているわけです。国としては、易々と「認める」とは言えない状況にあります。現に、倫理的に大きな問題があり、承認されている国は多くありません。

一方で、不妊患者の人たちの訴えとして、以下のような動きがありました。
代理出産を支持する不妊患者らでつくる「扶助生殖医療を推進する会」は2007年11月、生殖医療の在り方を検討している日本学術会議に対し、代理出産などの実施を認めるよう求める申し入れ書を発送したと発表しています。
 
申し入れ書は、倫理指針で代理出産を禁止している日本産科婦人科学会を「患者が憲法で保障された幸福追求権を行使する権利を侵害している」と批判。そのうえで、学会の倫理指針の撤廃や、代理出産によって生まれた子どもが依頼者夫婦の実子と認められるような法整備につながる結論を出すよう、学術会議に求めています。

不妊症とは、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間(通常は挙児希望のあるカップルが2年以上妊娠しなければ、不妊症として検査します)、性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態」といわれています。

挙児希望者たちの全体の10〜20%と推定されており、決して少なくないと思われます。「子供が欲しい」という切なる願いをもち、しかも不妊治療の末、不成功に終わったときの失望感を感じた後、「代理出産」という手を考える気持ちは、理解できないものではないでしょう。

今後、どのような動きになっていくのかは分かりませんが、こうした患者さんたちの希望が無視されずに済むよう、願いたいと思います。

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