大阪府富田林市など各地の自治体で、病院側が患者の救急搬送の受け入れを拒否するケースが相次いでいる問題で、大阪市消防局の平成18年の1年間の救急搬送で、20以上の病院で受け入れを断られたケースが104件あったこと、市消防局の集計で分かった。救急医療体制が比較的充実しているとされる都市部でも、受け入れ拒否が繰り返されている実態があらためて浮き彫りになった。

市消防局によると、平成18年中の救急出動は計20万5036件で、うち104件で搬送先の病院を決めるために行う病院への連絡が20回以上行われていた。
 
104件を時間帯別でみると、午前0時〜3時の時間帯が最も多く33件。次いで午後9時〜午前0時が32件、午前3時〜6時が23件と夜間から未明の時間帯に集中。午前9時〜午後0時、午後0時〜3時の昼間は0件だった。
 
なかには、かかりつけ医のいない30代の妊婦が病院がみつからないまま自宅で出産し救急救命士が取り上げた例もあったという。このケースでは午後8時12分に救急出動、4分後の午後8時16分に現場到着したが搬送先が見つからないまま、午後9時50分に自宅で出産。結果的に病院に搬送できたのは午後10時28分だった。
 
搬送先の選定は、救急病院の情報を集約する府救急医療システムの診療情報を、救急車に搭載している端末で確認し、救急車から病院に搬送連絡する仕組みになっている。

大阪市の救急出動件数は増加傾向にあり、18年の救急出動から病院到着までの平均時間は24.6分になっている。
(20超す救急受け入れ拒否、大阪市でも104件)


日本での救急医療体制において、以下のような問題点が指摘されていると考えられます。

医師不足
大きく分けて、医師の絶対数の不足や病院での必要医師数の不足、地域偏在による不足、診療科に属する医師の需給不均衡による不足に原因があると考えられています。こうした結果、救急医療に携わる人員の不足が存在し、「医師が現在の診療により、手が離せない」ということで、受け入れが出来ないといったことが考えられます。

救急医療用のベッド数の確保ができない
たとえ救急医療を必要とする患者を受け入れたとしても、その後に入院させるベッドが確保することができないといった問題があります。その背景として、社会的入院があるといわれています。

療養病床の入院患者の中には、病気治療という医学的必要性からではなく、介護をしてくれる家族や老人保健施設などの受け入れ先がないとの理由で、入院(社会的入院)を続けるケースも多く、財政を逼迫する原因とも考えられています。

厚労省によると、日本の平均入院日数は36.4日で、独10.9日、仏13.4日、英7.6日、米6.5日など、欧米に比べて長いのが特徴的です。一般病床に限れば20.7日ですが、社会的入院が問題となる療養病床では170日を超えてしまいます。こうした背景には、ケア付き高齢者住宅の整備率が高齢者人口の5%前後の欧米に比べ、日本は1%前後だという現実があります。

その結果、病院によってはほとんどのベッドが常に使用されている状態であり、そのために新たに患者さんを受け入れることが難しいということになってしまっているようです。

こうした人員・施設の問題を受け、大阪府では以下のような対策に乗り出しているようです。
転機となったのは、奈良県橿原市の妊婦が救急搬送先が決まらず死産した件です。この事案を受け、大阪府は昨年11月、夜間の妊婦搬送依頼に備え、妊婦の症状や空床状況をもとに病院を選び、受け入れの依頼などを行う「コーディネート業務」の専任医師制度を、全国で初めて導入すると発表し、府立母子保健総合医療センターで運営が開始されているようです。

今までは、毎晩2人の当直医師がコーディネート業務を兼務しており、このため、2人とも手術中だった場合は、搬送依頼の電話を待たせざるをえず、手術中の当直医師が、看護師に受話器を耳に押し当ててもらいながら搬送病院を選んでいたこともあったとのこと。

そこで、専任医師を置くことで、迅速でより適切な対応ができるようになると考えられます。もはや、限りある医療資源を、有効にフル活用するには、こうした施設間通しの連携が必要になっていくと考えられます。

今後、都市部でも同様のことが起こってくると考えられます。故に、犠牲者が再び出てしまう前に、しっかりとしたシステム作りが求められます。

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