米国での代理出産で生まれた子供の出生届が不受理とされ、昨年3月に最高裁から「母子関係の成立は認められない」と判断されたタレントの向井亜紀さん(43)が31日、代理出産の是非を審議する日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」公開講演会に聴衆として参加した。今後の見通しを質問したが、具体的な回答は得られなかった。委員会は代理出産を原則禁止したうえで、データ収集などを目的に一部で例外を認める方針を固めている。

向井さんは、質疑応答で「代理母になりたい人の健康は、国としてどう守るか」「将来の認可を夢見て受精卵を凍結保存している人がいる。営利目的で禁止になると、保存もできなくなるのではないか」といった懸念を質問したが、委員会は具体的な回答を避けた。
 
講演会終了後、向井さんは記者団に「禁止が決まってからデータを集めるのは順番的におかしいと思うが、調査枠が設けられて喜ぶ女性はたくさんいる」と話した。
(向井亜紀さん無視された! 代理出産シンポで質問)


「生殖補助医療の在り方検討委員会」による報告書素案では、
・日本産科婦人科学会による現行の自主規制の限界を指摘
・処罰の対象は営利目的での実施に限定する。
・夫婦の精子と卵子を用いた、いわゆる「借り腹」による代理出産について検討
・代理母となる女性が被る身体的・精神的負担や、生まれてくる子供の心に与える影響などの問題があり、代理母が危険を承知で引き受けたとしても、自己決定が十分といえるか疑問がある

−といったことが示されているようです。すべての代理出産を罰則付きで禁止すべきだとした平成15年の厚生労働省部会の結論を、やや緩和する内容であると考えられます。

たしかに、法律的には、生物学的母、代理母、育ての母の3人の母の法的地位をめぐって複雑です。単に技術的な問題に留まらず、「親とは何か」という親や子供を含めた定義の問題にまで発展してしまっているわけです。国としては、易々と「認める」とは言えない状況にあります。現に、倫理的に大きな問題があり、承認されている国は多くありません。

時には、第三者の女性との間に金銭の授受が介在したり(これは、"営利目的による代理母出産"に抵触すると思われます)、さらに生まれる子の親権、自らの親(出自)を知る権利、母子関係、子宮を提供する女性の人権などさまざまな問題を生じさせます。

一方で、以下のような代理母出産を求める声もあります。
不妊症とは、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間(通常は挙児希望のあるカップルが2年以上妊娠しなければ、不妊症として検査します)、性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態」といわれています。

挙児希望者たちの全体の10〜20%と推定されており、決して少なくないと思われます。「子供が欲しい」という切なる願いをもち、しかも不妊治療の末、不成功に終わったときの失望感を感じた後、「代理出産」という手を考える気持ちは、理解できないものではないでしょう。

代理出産に関する味方も変容しつつあります。病気や体質が原因で妊娠できない夫婦が、第3者の女性に子供を産んでもらう代理出産について、「利用したい」と考える人が急増したことが厚生労働省の意識調査で分かっています。

調査は2007年2〜3月、全国の20〜60代の男女5,000人に郵送でアンケートしたもの(回答率68.2%)。その中で「子供に恵まれない場合、代理出産を利用するか」の問いに「利用したい」「配偶者が賛成したら利用したい」と答えたのが50.6%と、平成15年の前回調査より12ポイントも上回っています。

ところが、第3者の精子を用いた人工授精は「利用しない」が67.3%(前回61.5%)、第3者の卵子を用いた体外受精も「利用しない」が62.4%(同58.2%)と、代理出産に認識が広まる一方で、その他の生殖補助医療には、否定的な見方が広まりつつあるといった結果になっています。やはり、「自分たちの遺伝子を継いだ子供」ということにウェイトがあるようです。

そうした意味からの、代理母出産を願う人たちは多いのかも知れません。こうした人たちの声を、もう少し広く聞き入れるといった姿勢も、あってしかるべきなのではないか、とも思われます。

【関連記事】
不妊症・不妊治療のまとめ

51歳女性が孫を産む−双子の代理母に