倖田來未さんがパーソナリティを務める2008年01月30日放送の「倖田來未のオールナイトニッポン」で、「35(歳)ぐらいまわると、お母さんの羊水が腐ってくるんですね、本当に」などと発言し、30代で出産する人への配慮を欠いた発言だとして、問題視する意見が相次いだ。

結果、ホームページ上で謝罪し、活動自粛となった。


羊水とは、羊膜腔(赤ちゃんと、羊膜との間に羊膜が分泌した羊水が充満してできるポケット)を満たす弱アルカリ性の液体です。赤ちゃんや臍帯を浮遊させることで、外部からの衝撃吸収や胎児の発育、運動に関して大切な働きをしていると考えられています。

そもそも、その羊水とは何からできているのかといえば、卵膜からの母体血漿成分、羊膜上皮よりの分泌物、胎児尿などであるといわれています。つまり、お母さんの血液血漿(簡単に言えば、血液から血球を抜いた液体の部分)、胎児をゆるく包み、羊膜腔を囲んでいる羊膜からの分泌物、赤ちゃん自身の尿で構成されているわけです。

妊娠初期における羊水は透明ですが、妊娠の進行とともに胎児皮膚および羊膜から剥脱した細胞が混在してくるため、乳白色となってきます。妊娠初期では胎児皮膚、羊膜などからの血漿成分、水分の漏出が主体です。妊娠20週頃を過ぎると、胎児皮膚の角化が進み(結果、血漿成分が滲み出しにくくなる)、胎児腎機能が成熟化することによって尿量が増加します。結果、胎児尿と似た組成となります。

妊娠末期の胎児は、1日400〜500mLの羊水を嚥下して消化管より吸収し、同量の尿を排出します。ですので、羊水の量によって、腎機能や消化管の機能に異常がないか、調べることが出来ます。つまり、羊水は胎児の生命現象を反映しているといえるでしょう。

他にも、羊水穿刺による羊水分析などが行われることもあります。これは、以下のようなことを行います。
羊水検査とは、羊水中に含まれる細胞や物質を分析する検査の総称を言います。先天異常症の出生前診断、胎児肺成熟度や胎児溶血性貧血の重症度判定、子宮内感染症の診断法などを行います。

羊水細胞は、染色体異常症やいくつかの遺伝疾患の出生前診断に用いられます。羊水上清中のαフェトプロテインやアセチルコリンエステラーゼ測定は、神経管欠損症、各種代謝産物測定は先天代謝異常症の出生前診断に用いられます。

羊水による胎児染色体検査は、次のような夫婦から希望があり、検査の目的や意義について十分な理解の得られた場合に適応となります。
1)夫婦のいずれかが染色体異常の保因者
2)染色体異常児を分娩した既住を有する妊婦
3)高齢妊娠
4)妊娠初期超音波検査で胎児に染色体が疑われるような特徴的な所見がみつかった妊婦
5)母体血清マーカー検査で高値の結果が得られ、どうしても羊水検査で異常の有無を確認したい妊婦

こうした場合、検査を行うことがあります。

ただ、検査においては羊水穿刺(超音波診断法で胎盤・胎児の位置を確認し、できるだけ大きな羊水ポケットをみつけて、そこに注射の針を刺していきます。そして羊水を吸引するわけです)をしなくてはなりません。

超音波診断装置の利用により、穿刺に関する合併症は激減していますが、現在でも0.3〜0.1%のリスクはあります。合併症として認められるのは、腟からの羊水の漏出や流産です。

このように、羊水は妊娠の経過においても、その検査所見についても重要なものです。上記の倖田さんの発言が、どのような根拠や意図に基づいているのか、「腐る」がどういう状態を指した言葉なのかは分かりません。高齢出産のリスクについて語りたかったのでしょうか。

高齢妊娠とは、初産婦35歳以上、経産婦40歳以上と定義されています。こうした場合、母体の糖尿病、妊娠高血圧症候群、軟産道強靭などによる分娩障害、児の染色体異常(ダウン症児の発症リスクが高いというのは有名でしょう)、流産のリスクが増加するということは知られています。

ですが、そうしたリスクを知ってなお、「赤ちゃんが欲しい」と切に願われる方もいらっしゃいます。不妊のため、「赤ちゃんを欲しくても産めない…」と悩まれているかたもいらっしゃいます。そうした方に対して、やはり配慮を欠いた言葉であったと思われます。

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