以下のような医療相談室での質問がありました。
たびたび十二指腸潰瘍になります。ピロリ菌が原因と言われ、2度除菌を試み、失敗しました。3度目を勧められましたが、どうすべきでしょうか。
(71歳女性)

ピロリ菌ことヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、ヒトなどの胃に生息するらせん型の細菌です。1983年バリー・マーシャル(Barry J. Marshall)らが、自らの体で菌の存在を証明したことは、有名なエピソードではないでしょうか。

ピロリ菌は幼児時に経口感染し、胃に数十年すみ続け、慢性胃炎を起こします。日本では40代以上の7割が感染しているといいます。胃癌では最も重要な発がん因子であるとされています。

ヘリコバクター・ピロリの感染は、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず、胃癌やMALTリンパ腫などの発生につながることが報告されています。細菌の中でヒト悪性腫瘍の原因となりうることが明らかになっている唯一の病原体です。

こうした十二指腸潰瘍などでお困りの場合は、やはり除菌が勧められるでしょう。治療法としては、プロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾールまたはオメプラゾール、ラベプラゾールなど。胃酸の分泌を抑えます)+ クラリスロマイシン + アモキシシリン(これらは、抗生物質です)の3剤併用が健康保険の適用となっています。ただし、保険適応は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍がある場合です。

ただ、上記の例のように、失敗してしまうケースもあるようです。このことを東北大病院総合診療部教授であられる本郷道夫先生は、以下のように答えてらっしゃいます。
除菌は、初回治療で80〜90%の人でうまくいきますが、一部には除菌に使う抗生物質に抵抗性のあるピロリ菌に感染している患者さんがいます。この場合、抗生物質の種類を替えて除菌治療を行います。これも80〜90%の人で成功します。

ご質問者は2度失敗したとのことですが、2回目は初回と同じ抗生物質を増量したものと思われます。次回、抗生物質を替えれば、除菌が成功する可能性が高まります。

…とのことです。具体的には、以下のような方法で治療を行います。
最近ではクラリスロマイシン耐性菌株が増えてきてしまっており、除菌できていなかったら、アモキシシリンをメトロニダゾールに変え、再除菌します。一般的に、こうした薬剤の副作用は、軟便や下痢、薬剤性皮疹などであり一般に軽微であるとされています。

さて、本題となる「この治療を行うべきか」、ということについては、本郷先生は以下のようにお答になっています。
「ピロリ菌による慢性委縮性胃炎の患者さんは、除菌をすると、胃がんになる確率が低下する」と学会で報告されていますが、胃がん予防のための除菌は保険で認められていません。さらに、高齢者では胃がんの予防効果は期待できないと考えられています。

しかし、胃・十二指腸潰瘍の再発を繰り返す方ならば、年齢に関係なく除菌の意味はあります。ご質問者は潰瘍の再発予防が目的なので、担当医にもう一度よく相談してください。

上記のケースでは、やはり十二指腸潰瘍を繰り返している、という点が大きいと思われます。やはりこうしたケースでは、(発癌リスクの軽減という理由よりは)症状の改善を行う目的により、除菌が勧められると思われます。

成人においては、ヘリコバクター・ピロリの再感染は稀であるといわれています。ですので、一度除菌されれば、その後の経過観察は不要であると考えられます。もし胃潰瘍や十二指腸潰瘍などでお困りの方は、一度、病院で相談されてはいかがでしょうか。

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